2014年4月、俺は期待と少しばかりの不安を抱えながら、真新しい学生カバンを肩にかけた。
鏡に映る自分の姿は、まだどこか幼さが残るものの、真新しい制服がその幼さを覆い隠すように、
少しだけ大人びて見えた。今日から始まる高校生活は、俺にとって間違いなく人生の大きな節目となるはずだった。
新たな門出への道のり
実家を出て、最寄りの駅までの道のりは、中学時代とは大きく異なっていた。
中学までは家から徒歩20分ほどの距離だったが、高校はそうはいかない。家から駅まで歩き、そこから武蔵野線に揺られること数十分。さらに乗り換えを経て、目的の駅に降り立つ。
そして、そこからまた歩いて学校へ向かう。トータルで片道100分。朝はまだ星が瞬く時間に家を出て、電車に乗り込む日々が始まる。
窓の外を流れる景色は、見慣れた地元とは少しずつ違っていた。高層ビルが立ち並ぶ都会的な風景から、やがて田園風景へと移り変わっていく。
俺が通うことになる高校は、そんなのどかな景色の中に溶け込むように建っていた。
毎朝の満員電車に揺られながら、俺は少しずつ社会の縮図のようなものを感じ始めていた。
車窓から見える人々は、それぞれが自分の目的地に向かって黙々と進んでいる。その光景は、これから俺が踏み出す「就職」という世界と重なって見えた。
この高校は、就職を目的とした専門高校だ。普通科の高校とは異なり、座学だけでなく、より実践的な学びが重視されると聞いていた。俺が配属されたのは農業コース。
正直なところ、農業に特別な興味があったわけではない。ただ、漠然と「部活」に行きたいという思いと、中学の先生の勧めもあってこのコースを選んだ。
実家が農業をしているわけでもない俺にとって、田畑を耕し、作物を育てるという行為は、まるでゲームの世界のように新鮮に思えた。
土の匂いや、植物が育つ生命の神秘に触れる日々が、俺を待っているんだと想像するだけで、胸が高鳴った。
期待と戸惑いの入り混じる感情
高校生活への期待は膨らむばかりだったが、同時に小さな戸惑いも感じていた。
中学までは、幼馴染や近所の友達と同じ学校に通うのが当たり前だった。
しかし、この高校は、地域を越えて様々な場所から生徒が集まってくる。新しい環境で、新しい人間関係を築いていけるだろうか。そんな不安が、心の片隅に引っかかっていた。
電車を降り、慣れない道を地図アプリを頼りに進む。周囲には、同じように真新しい制服を着た生徒たちがちらほらと見え始めた。
彼らもまた、俺と同じように期待と不安が入り混じった感情を抱えているのだろうか。すれ違う生徒たちの顔は、皆どこか緊張しているように見えた。
校門が見えてきたとき、俺は大きく深呼吸をした。広々とした敷地には、校舎の他にも実習棟や温室のような建物が見える。まさに「学ぶ」ための場所だと、その外観だけでも伝わってきた。
中学までののんびりとした雰囲気とは全く違う、どこかピリッとした空気が漂っている。
未来への予感、そして無知
この時の俺は、まだ高校生活の入口に立ったばかりのひよっこだった。
目の前の新しい学びや、初めての専門的な分野に挑戦できることに胸を躍らせていた。就職という明確な目標があるこの学校で、俺はきっと将来の道を見つけることができるだろう、と漠然と信じていた。
しかし、この高校での3年間が、俺の人生をまさかここまで大きく変えるきっかけとなるなんて、この時の俺は知る由もなかった。
なにせ、普通の人なら「良い学習して良い会社へ就職」するというのが当たり前、俺もそんな普通のサラリーマン製造機の1体になるじゃないかと当初は思ったからだ。
もちろんだが、後に俺が人生をかけて取り組むことになるメタバース『TITAN学園』の構想の欠片すら、この時点では頭の片隅にもなかったのだ。
YouTuberという存在を知り、クリエイターの道に惹かれていくことも、特例子会社での葛藤も、そして退職後の2年間の地獄のような創作活動も、すべてがこの高校生活の延長線上にあった。
この、希望に満ちた2014年4月の始まりは、後に波乱と創造に満ちた俺の人生の、静かなプロローグに過ぎなかったのだ。
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