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【第0章第20話】価値観Ver2.0 – 種から芽生え、そしてトンネルへ

卒業式を終えてからも、その余韻に浸るように、俺にとっての高校生活はまだ続いていた。

卒業証書を手にし、友人たちとの別れを惜しんだものの、実際に社会人となるまでには、まだ20日ほどの春休みがあったのだ。

その期間も、俺は最後まで高校生としての自由を謳歌し、まるで人生の黄金期を締めくくるかのように、存分に楽しんでいた。

目次

3年間で起きた価値観の「改革」

改めて3年間の高校生活を振り返ると、俺の価値観は凄まじい「改革」を起こした時間だったと断言できる。

高校入学前の俺は、視野がとにかく狭く、興味の対象もごく限られていた。

趣味といえば鉄道にのめり込むことが多く、エンタメ系もゲームなどごくわずかに触れる程度。

世界は、自分の手の届く範囲にしかないと本気で思っていた。

まるで、小さな箱の中に閉じこもっていたかのような状態だった。しかし、この3年間で、その狭い世界は一気に広がり、まるで色鮮やかなパノラマのように変化したのだ。

1年生の牧場での、温かい命との触れ合いは、動物たちの純粋な生命力や、それを育むことの尊さに触れ、それまで自分の中になかった温かさや、慈しむ気持ちが生まれた。

そして、何よりも台湾での異文化体験は、俺の固定観念を根底から揺るがした。笑顔で、楽しそうにコミュニケーションを取りながら働く人々を見た時、日本の「マナー」という名の窮屈な社会とは対照的で、心の奥底に大きな衝撃を与えた。それは、社会の「当たり前」というものに対する、根源的な疑問を俺に投げかけたのだ。

さらに、Youtuberになるという夢を掲げ、具体的な形として「理想の家」を設計したこと。

そして、プログラミングという新たな「システム」との出会い。

これら全ての経験が、俺の視野を広げ、多様な物事を多角的に捉える力を育んでいった。頭の中で描いたアイデアを、具体的な形としてアウトプットする喜びを知った。特に、プログラミング授業でマウスを握り、自分の思い通りに画面を操作する感覚は、俺のシステム構築欲を強く刺激した。

そして、のちにメタバースやエンタメの主導核となる、俺の根幹を成す「女子版」も、実はこの高校時代に、その萌芽が生まれた。女子版は、当時こそまだ明確な言葉として意識され、面識的なものはないものの、すでにこの時から、自分がこれまで認識していた「自分」だけが全てではない、もう一人の性格や感性が自分の中に存在しているということを、漠然とではあるが実感はしていた。

それは、論理や効率性だけでは割り切れない、感情や美意識、共感といった、より人間的な側面に強く惹かれる感覚だった。

美しいもの、感動するもの、そして人々の心に響くものを創り出したいという、内なる衝動。この「女子版」の誕生は、俺の創造性や表現の幅を無限に広げる、まさにターニングポイントとなったのだ。


最後の春休み:黄金期の終焉、そして静かなる転換期

それから卒業までの最後の時間、俺は残りの高校生活を、友人たちと精一杯楽しんだ。

制服を着て学校に行く日々、他愛もない会話で盛り上がる昼休み、放課後の部活動。体育館の隅で友人たちとバスケに興じたり、教室で漫画を読みふけったり。全てが、かけがえのない思い出となっていった。

廊下を歩く生徒たちの笑い声、職員室から聞こえる先生たちの声、グラウンドで響く部活動の掛け声。ありふれた日常の音が、今はもう遠い記憶の彼方だ。そして、高校生活という輝かしい章は、静かに幕を閉じた。

その後、卒業してから社会人になるまでの短い春休み。

その20日ほどは、俺にとっての黄金期を締めくくる、最後の自由な時間だった。

しかし、それは同時に、俺の人生が大きく転換する、静かなる準備期間でもあったのだ。俺の心は、高校時代の楽しかった日々への郷愁と、これから始まる社会人生活への漠然とした不安、そしてYoutuberという夢への揺るぎない情熱の間で、複雑に揺れ動いていた。

この春休みは、これまでの高校生活の延長線上にあるようで、実はそうではなかった。

俺は、この期間に、社会人としての自分と、Youtuberという夢を追う自分との間で、深い葛藤を抱えることになる。親の期待に応える形で就職を選んだものの、心の中には、常に「これで本当にいいのか?」という、しつこい疑問符が付きまとっていた。それは、まるで心の奥底から響く警鐘のようだった。俺の「主張が弱かった」という欠点が、この時、大きく作用した。自分の本心を押し殺し、社会のレールに乗ろうとする自分。

そして、その裏で密かに、しかし熱烈に燃え上がるYoutuberへの夢。二つの自分が、心の奥底でせめぎ合い、俺の精神を蝕んでいく。まるで、内側から引き裂かれるような感覚だった。

それは、まるで「価値観Ver2.0」へのアップデートを促されるかのような感覚だった。

高校生活で培った様々な価値観が、社会という現実を前にして、再構築を迫られる。デフレ思考、ネガティブ、保守といった、後に会社を覆うことになる暗い影の片鱗が、この時期からすでに、俺の心にも忍び寄っていたのかもしれない。

夢と現実の狭間で揺れ動き、ポジティブ思考だったはずの俺の心にも、微かな陰りが差し込んでくる。空は晴れているのに、心の中には薄い灰色の雲がかかっているような、そんな感覚だった。

そうして、俺は次年度へと進んだ……。

しかし、これは長く廃れたトンネルの入り口に過ぎなかったのだ。

高校時代の黄金期は、ここで完全に終わりを告げる。それは、明るい光が差し込む広々とした草原から、暗く、先が見えないトンネルへと足を踏み入れるような、そんな感覚だった。


高校時代編、終幕。そしてトンネルの始まり。

というわけで、これにて高校時代編は終わりだ。

「え?第0章が終わりじゃないの?」

そう思うかもしれない。しかし、これがねー、0が名乗るほど、まだ始まってもないんだよ

本当の物語が「1」として花を開き始めるのは、もう俺じゃないんだよ。

俺はあくまで先祖というもの、つまりはメタバースの世界の後継者たちがその後釜。

だから、まだこの高校時代は、種、もしくは苗なんだよね。大地にしっかりと根を張り、水を吸い、光を浴びて、これから大きく成長していくための準備期間に過ぎなかったのだ。

それは、荒れ地に植えられた小さな苗木のように、これから厳しい風雪に耐えなければならない。

ここから第21話以降は、社会人初期時代【会社在籍時代】へと突入する。

この期間は、約6年ほどと長かったので、これより話は長く、ある意味、「トンネル」となる。しかし、このトンネルの中での経験こそが、俺を大きく変化させ、後のメタバース『TITAN学園』の創造へと繋がる、ものすごく大事な内容なのだ。

デフレ思考、ネガティブ、保守。これらの言葉が示すような厳しい現実が、俺を待ち受けていた。

会社という組織の中で、俺の「男子版」のまだ出てきてない「ハイエンド」の効率性は試されることになる。

しかし、同時に、そこには「女子版」が求める人間らしさや創造性を押し殺さなければならないような、見えない圧力も存在した。毎日同じ時間に同じ場所へ通い、与えられた仕事をこなす。

その繰り返しの中で、俺は自分自身と向き合い、本当に大切なものは何か、何のために生き、何を創造したいのかを、深く深く問い続けることになる。

そして、トンネルの先に、一筋の光を見出すために、もがき続けるのだ。

高校時代という温室で育った苗が、社会という荒波の中で、いかにして根を張り、幹を太くしていくのか。

それは、決して平坦な道のりではなかった。むしろ、苦悩と葛藤に満ちた、長く厳しい戦いが待っていた。

このトンネルを抜け出すまで、俺は何度、自分の夢を諦めそうになったことか。

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