俺がこの高校を選んだ最大の理由は、実は**「鉄道旅行部」**があったからに他ならない。
農業コースを選んだのも、この部活に入れるなら、という気持ちが大きかったほどだ。
実は本当は農業コースに入るつもりはなかった。
というのも実は「木工コース」に入る予定だったが、入学希望数が2倍以上ととてもだが競争が激しく
入学試験には本気で取り組んだ。中学の塾で、50人いるクラスの中で模試の順位が8番目だった時は、正直「あれ?」と思ったが、それもそのはず、見直しを一切していなかった結果だった。それでも、本気で打ち込んだ受験勉強が実を結び、俺は念願の高校、そして鉄道旅行部のある場所にたどり着いたのだ。
「ゆるい」けれど奥深い鉄道旅行部
俺が期待に胸を膨らませて入部した鉄道旅行部は、世間一般の部活動のイメージとは少し違っていた。普段の活動は、一言で言えば「鉄道の本を読み、そして会話する」というもの。
まるでサークルのような、非常にゆるい雰囲気だった。運動部のように試合に出るわけでもないし、美術部のように作品を展示するわけでもない。ただひたすらに、部室に集まって鉄道に関する知識を深めたり、互いの鉄道愛を語り合ったりするのだ。
それでも、俺にとってはそれが至福の時間だった。
家で一人、時刻表を眺めたり、模型をいじったりするのも好きだったが、同じ情熱を持つ仲間と語り合うのは、また格別だった。
「この車両の型番って、昔の〇〇系が元になってるんだぜ?」
「ああ、そうそう!あの時代の座席の設計って、乗り心地最高なんだよな。」
そんな会話が飛び交う部室は、俺にとっては何よりも居心地の良い場所だった。
自分のマニアックな知識を披露したり、逆に知らないことを教えてもらったりするたびに、俺の鉄道への情熱はさらに燃え上がった。
しかし、この部活の真骨頂は、その「ゆるさ」の中にある、年に数回の「実際の旅行」にあった。
過去には、鉄道ファンなら一度は訪れたい鉄道博物館や、東武鉄道の歴史を学べる東武博物館などに出かけた経験がある、と先輩から聞いていた。座学で得た知識を、実際に自分の目で見て、肌で感じることができる。これほど素晴らしいことはない。俺は、この「旅行」を心待ちにしていた。
Yくんとの出会いと、芽生える違和感
入部して間もない頃、部室の片隅で黙々と鉄道雑誌を読んでいる生徒がいた。顔を上げると、少し照れたように微笑む。それが、後に俺の人生に大きな影響を与えることになるYくんとの初めての出会いだった。
「俺、Yだよ。よろしくな。」
彼の声は、少しだけ低くて落ち着いていた。俺も自己紹介をし、ぎこちないながらも会話が始まった。Yくんも俺と同じく、鉄道の奥深さに魅了された一人だった。彼は特に、地方のローカル線や廃線跡に興味があるようだった。
「この前、一人で秘境駅に行ってきたんだ。駅舎もほとんど残ってなくて、でもそれがまた良いんだよ。」
Yくんの話す内容は、俺が今まで興味を持っていた「現役の列車」や「運行ダイヤ」といったものとは少し違っていた。彼の話は、鉄道の歴史や、その場所が持つ物語に焦点を当てていた。
俺の鉄道への情熱は、あくまで「男子版」の領域。機能や効率、そしてシステムとしての鉄道に惹かれていた。しかし、Yくんの話を聞いていると、鉄道の別の側面が見えてくるような気がした。
彼の話に耳を傾けながら、俺は内心で小さな違和感を覚えた。
それは、決して不快なものではなく、むしろ新鮮な感覚だった。まるで、これまでモノクロだった世界に、少しずつ色がつき始めるような感覚だ。彼は、俺がまだ知らなかった「鉄道の深淵」へと俺を誘う存在になるのかもしれない。
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