社会人としての「懲役47年」が始まり、日々のルーティンに埋没していく中で、俺のYoutuberへの夢は、相変わらず心の奥底で燃え続けていた。
新しい高性能PCも手に入れた。しかし、その夢を形にするには、動画編集だけでなく、もう一つ、重要な要素があることに気づき始めていた。
それが、イラストだ。しばらくして、俺はYoutubeの活動のほかに、このイラストの世界にもデビューし始めたのだった。それは、新たな創作活動の扉を開く瞬間だった。
初めてのデジタルイラスト:板タブからのスタート
当時、俺にはイラストを描くための十分なお金が全くなかった。
社会人として働き始めたばかりで、給料は生活費とPCのローンでほとんど消えていく。特に、液晶タブレット、通称「液タブ」は、当時としては高級品の代名詞だった。
画面に直接描ける液タブは、まるで紙に描くかのような直感的な操作が可能で、イラストレーターを目指す者にとっては憧れのツールだ。しかし、当時は安くても10万円であることが多く、PCを買ったばかりで俺には手が届く代物ではなかった。
そのため、俺はまず、より手頃な価格の板タブ(ペンタブレット)から始めた。
板タブは、手元のタブレットではなく、PCモニターを見ながら描く、慣れが必要なツールだ。最初はその操作感に戸惑った。手元と視線のずれに苦戦し、線が思うように引けない。
紙に描くように自由にペンを走らせることはできず、もどかしさを感じた。
それでも、Youtuberとして動画のサムネイルやキャラクターデザイン、あるいは配信画面の背景などにイラストを導入したいという強い思いが、俺を突き動かした。
のちに液タブを手に入れることになるが、この当時はまだ、板タブでも十分だった。
というのも、俺のイラストの技術はまだ未熟で、本格的なイラストを描く機会も少なかったからだ。
複雑な構図や精密な描写に挑戦するよりも、まずはツールの使い方に慣れ、基本的な描画スキルを身につけることが先決だった。だから、高価な液タブに投資する必要性は、まだ感じていなかったのだ。
この頃は、イラストを描くこと自体が新鮮で、試行錯誤しながらも、そのプロセスを楽しんでいた。
本格的なイラストソフトとの出会い:Clip Studio Paint
板タブと同時に、イラストを描くための本格的なソフトウェアも導入した。
そう、それがClip Studio Paintである。当時から、プロの漫画家やイラストレーターの間でも広く使われているこのソフトは、その多機能性と、表現の幅広さで知られていた。
現在こそ、俺はClip Studio Paintの最高エディションであるEX版を使用しているが、当時はそこまで高度な機能を使用しないだろうという判断から、Pro版に留めていた。
それでも、Pro版でも十分すぎるほどの機能が搭載されており、ブラシの種類やレイヤー機能、色塗りツールなど、これまで使ってきたフリーソフトとは比べ物にならないほど高性能だった。
しかし、当時の俺は、まるで宝の持ち腐れ状態だった。
正直なところ、まだ頭が悪い時期だったので、ソフトの使い方がまともに知らなかったのだ。膨大な機能のアイコンが並ぶ画面を前に、何から手をつけていいのか分からない。
チュートリアル動画を見ても、いまいちピンとこない。結局、最初期はほとんど使用できずに、数週間、いや、数ヶ月間、放置していた時期もあった。せっかく高性能なソフトを手に入れたのに、使いこなせない自分に、どこか情けなさを感じていた。
だが、Youtuberとして活動していく上で、質の高いイラストが必要になるという意識が、俺を再びClip Studio Paintに向かわせた。
動画の企画を考える中で、頭の中のイメージを具現化するためには、イラストの力が不可欠だと感じ始めたのだ。
次第に、独学で少しずつ機能を探り、簡単なイラストを描き始めるようになった。最初は拙い線しか引けなかったが、描けば描くほど、少しずつ上達していくのが実感できた。
そして、時間がたつにつれて、その使用頻度は増えていった。気づけば、毎日PCを立ち上げたら、まずClip Studio Paintを起動する、そんな習慣ができていた。
創作活動の裏側:AI時代と現在の創作頻度
イラストを描くことは、俺にとって、Youtuberとしての活動とはまた異なる、新たな表現の場となった。
絵を描いている間は、仕事のストレスや、社会のしがらみから解放され、純粋に創作の喜びに浸ることができた。
そして、これは少し内緒の話だが、世の中にAIイラストが登場する前より、今のほうが創作活動としてイラストを使用する機会が多い。
AIがイラストを生成できるようになり、人間の手で描くことの意味が問われるようになった。
一見すると、AIの登場は人間のクリエイターにとって脅威のように思えるかもしれない。しかし、俺は逆だと考えている。AIは、あくまでツールだ。AIがどんなに進化しても、人間の持つ「表現したい」という根源的な衝動や、独自の視点、そして感情を込めた作品には代えられない。
AIの登場は、むしろ俺の創作意欲を刺激し、より個性的で、感情に訴えかけるようなイラストを描きたいという気持ちを強くした。AIが簡単にイラストを生成できるようになったからこそ、人間の手でしか生み出せない「味」や「個性」が、より一層際立つと信じている。
このイラストとの出会いは、俺のYoutuberとしての活動にも大きな影響を与えた。
動画のサムネイルやキャラクターデザイン、アニメーションの一部など、様々な形で自作のイラストを導入することで、動画のクオリティは格段に向上した。
それは、チャンネルの個性となり、視聴者との絆を深める要素にもなった。
社会人としての「懲役47年」が始まり、精神的な疲労が募る中でも、イラストを描く時間は、俺にとっての精神的な拠り所となっていた。
それは、仕事のストレスを忘れさせ、自分自身を解放できる、貴重な時間だった。Youtuberという夢、そしてイラストという表現方法。この二つの創作活動が、社会という名の長いトンネルを歩む俺の、光となっていくのだ。
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