今日の3時間目は、理科の授業。普段はあまり興味のない教科だけど、今日のテーマは「スライム」だという。
ゲームに出てくるあのプニプニしたモンスターの元を作る、なんて聞いたら、参加しないわけにはいかないだろう!
だって、ゲームに出てくるスライムって、たいてい序盤の弱い敵だけど、なんだか可愛いんだもん。
「あのねあのね!タイタンおじさんが持つ学校は、登校や服装だけじゃなく、授業も自由選択が特徴なんだよ!」
私は、教室に入るなり、大声でアピールした。今日の授業には、何十人もの生徒が参加している。みんな、それぞれに興味があるテーマを選んで集まってくる。それが、TITAN学園の面白いところだ。
私も、理科はあんまり得意じゃないし、正直、科学の難しい話はすぐに眠くなっちゃう。
でも、スライムは別だ。ゲームに出てくるキャラクターだから、その気持ちで、私はこの教室に足を踏み入れたのだ。
「という理由で、登場スイレン参上!」
私は、ビシッとポーズを決めて、教室の真ん中に立ちはだかった。
「誰に向かってアピールしているんだ」
呆れたような声が聞こえた。声の主は、かずま。いつも冷静で、ちょっと皮肉屋なクラスメイトだ。黒い髪に眼鏡、いつも真面目な顔をしている。私とは正反対のタイプだから、よくぶつかるけど、なんだかんだで付き合いの長い友人でもある。
「紹介しよう!このいかにも私をつっこみ相手をしてくれそうな相棒!その名もミスターかずまX!」
私は、かずまの肩をバシッと叩いた。彼は、私のお気に入りのツッコミ役なのだ。
「だから誰に向かっているんだ!というかXやめんかい!」
かずまは、私の手を振り払って、顔をしかめた。顔はしかめているけど、なんだかんだで付き合ってくれるところが、彼の優しいところだ。
「あら!あのにぎやかなパレードをしているのは!?すいれんちゃん!」
聞き慣れた声が聞こえて、振り返ると、そこにはにゃももが立っていた。
ピンク色のツインテールが揺れて、今日も可愛い。
「よ!きょうもギャルってる!?」
私は、にゃももの元へ駆け寄って、ハイタッチをした。にゃももは、いつも流行のファッションを追いかけている、私の親友なのだ。
「もちろんとも!」
にゃももは、ニッコリ笑って胸を張った。今日も、最新のバーチャルファッションを着こなしている。
「よりによってうるさい2人と一緒かよー…えーとあと1人は…」
かずまが、呆れたようにため息をついた。彼の視線は、にゃももの隣に立つ、もう一人の生徒に向けられている。
ナイトクイーン「・・・」
その子は、黒いゴシックロリータ風の衣装を身につけ、顔にはベールがかかっている。
いつも無口で、何を考えているのか分からないミステリアスな雰囲気の持ち主だ。彼女の周りだけ、なんだか空気が違う。
かずま「この学園はいったいどうなっているんだー!」
かずまが、頭を抱えて叫んだ。彼の周りには、いつもツッコミどころ満載の生徒が集まってくるのだ。
「それじゃあこれから3時間目の授業をはじめるぞいー!」
すると、教室の奥から、元気いっぱいの声が響いてきた。
さいおんじ先生だ。白衣を着ているけれど、その下にはゲームキャラクターのTシャツを着ているのが見える。
さいおんじ先生「今日はなー!ゲームで最初にでてくるあの敵!スライムのその素材の元を作る授業をしていくぞー!」
さいおんじ先生は、理科を担当する先生だけど、ガチのゲームオタク先生だ。
いつも授業をするときは、必ずゲームに関係するものをネタにしてくる。それが、この学園の面白いところなのだ。先生も生徒も、みんな個性的でおもしろいやつが多いから、ぜんぜん飽きない。むしろ、毎日が新しいゲームみたいで楽しい。
にゃもも「さいおんじ先生!きょうはどうして1番最初に出てくる敵であるスライムを選んだんですか!?」
私は、手を挙げて質問した。みんなが気になっていることだろう。
さいおんじ先生「よく聞いたなすいれんちゃん!」
さいおんじ先生は、にやりと笑った。彼の目は、まるでゲームの攻略法を語るかのようにキラキラ輝いている。
さいおんじ先生「こどもたちならゲームで一番最初というなら、某クリとキノコが合体したが、某赤いヒーローに踏みつぶされる敵を思い浮かぶかもしれないが、俺はあえてスライムを選んだ!」
かずま「いや意味わからん結論だしいろいろまわりくどいな」
かずまが、呆れたようにツッコミを入れた。さいおんじ先生の話は、いつも回りくどいのだ。
さいおんじ先生「そこはいろいろと突っ込むのは製作者側の都合で」
さいおんじ先生は、得意げに胸を張った。
かずま「ストーリー作品あるあるだな…」
かずまが、諦めたように呟いた。
さいおんじ先生「もちろんスライムを一番最初に授業に選んだのは、もちろん一番最初だからじゃない!それは理科の授業に合理的でふさわしいからだ!」
さいおんじ先生は、熱弁を振るう。
かずま「この学園は生徒に学ばせる気があるのか…」
かずまが、もう諦め顔だ。でも、私もかずまも、さいおんじ先生の授業はなんだかんだで好きなのだ。だって、飽きないし、たまにすごく面白い話が飛び出すこともあるから。
「でも面白そうね、案外よく出てきて日常にありながらも作り方というのを知らない人は多いからね~勉強になるわ」
聞き慣れた、少し大人っぽい声が聞こえた。振り返ると、そこにはブラウニーお姉ちゃんが立っていた。茶色いショートヘアに、知的な雰囲気が漂う。
お姉ちゃんは、タイタンおじさんの後継者の一人で、私の姉。
普段は、イラストだけにとどまっているはずなのに、なんでここにいるんだろう?
「あ!お姉ちゃん!」
まさかお姉ちゃんがいるとは…!意外!お姉ちゃんは、普段あまり理科系の授業には参加しないはずだ。
スイーツとか好きだけど、まさかスライムを食べるつもりかな?お姉ちゃんは、ちょっと天然なところがあるから、もしかしたら……。
さいおんじ先生「というわけでスライムを開発するが、その前に材料として6個必要だ」
さいおんじ先生は、黒板に材料の名前を書き始めた。
さいおんじ先生「洗濯のり、ただの水、ほう砂、水性絵具、ビーカー、スプーンの6個が今回のスライム作成というクエストを達成するためには必要だ!」
にゃもも「ただの水ということは水道水でもいいんですか?」
にゃももが、素朴な疑問を投げかけた。
さいおんじ先生「井戸水でも水道水でも温泉でも水は水だしな!、よごれた泥水じゃなければなんでもOKさ!きれいな水なほどスライムは喜ぶしな!」
さいおんじ先生は、ドヤ顔で答えた。
かずま「いや論点そこじゃねぇだろ」
かずまが、再びツッコミを入れた。
さいおんじ先生「つーわけでレッツ!クッキングタイム!」
さいおんじ先生が、大きく両手を広げて叫んだ。
すいれん・ブラウニー「いえーい!」
私も、お姉ちゃんも、思わず声を上げた。なんだか、本当にお料理教室みたいで楽しい。
かずま「食べ物じゃねぇからクッキングじゃねぇだろ!」
かずまが、また叫んだ。でも、さいおんじ先生は、もう聞こえていないふりをしている。
さいおんじ先生「まずはこの辺に転がっているビーカーに洗濯のりを入れる!」
さいおんじ先生の指示に従って、みんながビーカーに洗濯のりを入れていく。洗濯のりは、透明でドロドロしていて、なんだか面白い。
かずま「もういちいち突っ込んでられねぇや」
かずまは、呆れたようにため息をつきながらも、きちんと作業を進めている。結局、真面目なんだよね、かずまって。
さいおんじ先生「つぎにきれいな真の心をこもった水をビーカーに入れて混ぜる、色を付けた場合は絵具をいれていいぞー!」
私は、水色の絵具を多めに入れてみた。
やっぱり、水色のスライムが良いもんね。自分と同じ色のスライムだ。みんなも、それぞれ好きな色を選んで、混ぜている。にゃももはピンク、かずまは緑、ナイトクイーンは黒を選んでいる。
さいおんじ先生「終わったらわりばしとかそれでかき混ぜて!」
みんなが、割り箸でビーカーの中身をかき混ぜ始めた。ドロドロの洗濯のりが、水と絵具と混ざって、だんだん色がついていく。まるで、魔法みたいだ。
「せんせー!これで完成?」
私は、早くスライムを触りたくて、思わず尋ねた。
さいおんじ先生「いやいやまだまだもう1つあるで、ここ肝心!」
さいおんじ先生は、ニヤリと笑った。まだ何かあるのか。
さいおんじ先生「もう一つのビーカーに事前に用意したお湯とホウ砂をいれてかき混ぜ!」
さいおんじ先生の指示に従って、みんなが作業を進める。ホウ砂は、白い粉だ。お湯に入れると、すぐに溶けていく。
さいおんじ先生「ほう砂が入っているお湯をスライムの元になるビーカーの中に入れてかき混ぜれば」
ドキドキする瞬間だ。ホウ砂を入れたら、どうなるんだろう?私は、ワクワクしながら、ビーカーの中身をじっと見つめた。
さいおんじ先生「はい!ぷにぷにのスライムちゃんの完成だぜ★」
さいおんじ先生の言葉と同時に、ビーカーの中身が、みるみるうちに固まっていった。ドロドロだった液体が、ぷにぷにとした塊に変わっていく。すごい!
にゃもも「意外と簡単に作れるんだね!私もできた!」
にゃももが、嬉しそうに自分が作ったピンク色のスライムを掲げた。
彼女のスライムは、可愛いハートの形に整えられ、キラキラの目も描かれている。
さいおんじ先生「おお!にゃももちゃんはピンク色で可愛いなぁー!というか目とかはどうやって書いたんだ?」
さいおんじ先生が、にゃもものスライムに興味津々だ。
さいおんじ先生「みんないいスライムができてあるな!よしよし!これはクエストクリア間違いなしだな…さてあとはすいれんちゃんだな…!すいれんちゃんはどんなスライムができたかな??」
さいおんじ先生が、私のスライムを見にやってきた。私は、自信満々に、自分が作ったスライムを差し出した。
「せんせーできたよー!」
さいおんじ先生「おー!どれどr…えええ!?」
さいおんじ先生の声が、教室に響き渡った。そして、その声は、驚きと恐怖に満ちていた。
私が作ったのは、みんなが思うような可愛くオリジナルのスライムとは程遠いものだった。リアルで、しかも生きた化け物スライムを作り上げたのだ…!
私のスライムは、一般的なゲームに出てくる可愛いスライムとは全く違う。
透明な体に、ドロドロとした質感。そして、何よりも恐ろしいのは、その形だ。
まるで、本当に生きているかのように蠢き、不気味な光を放っている。目のようなものが二つ、ギョロリと動いている。まるで、今にも私に襲いかかってきそうな、そんな雰囲気を醸し出していた。
すると当然だが、生徒たちはおどろいていく。 その名も…「THE・生スライム」!
「きゃあああああ!」 「な、なんだあれ!?」 「本物のスライムだ!」
教室は、パニックに包まれた。みんなが、私の作ったスライムから距離を取ろうと、後ずさりする。ナイトクイーンも、さすがに少しだけ目を見開いている。かずまは、顔面蒼白だ。
もちろんゲームのスライムは敵というわけで、生徒を襲い掛かる!
「グブゥゥゥゥ…」
私の作ったスライムが、不気味な音を立てて、ビーカーから這い出てきた。そして、私に向かって、ゆっくりと迫ってくる。いや、私ではなく、近くにいた生徒たちに向かってだ。まさか、本当に動くとは。
「はあああああああ!」
その時、一筋の光が走った。ブラウニーお姉ちゃんだ!彼女は、どこからともなく取り出した500mlのミカンジュースを、私の作ったスライムにぶっかけたのだ。
ミカンジュースは、スライムの体にかかると、シュワシュワと泡立ち、みるみるうちに溶けていった。
THE・スライムはブラウニーが持ち出した500mlミカンジュースで溶けて倒された。
かずま「いや怖そうな見た目であっけな…」
かずまが、呆れたように呟いた。確かに、見た目は怖かったけど、あっけなく倒れてしまった。
さいおんじ先生「いやーなんとか一命はとどめたな…、まさかうちの生徒に本当の真のスライムを作り上げる発明家がいたとは…」
さいおんじ先生は、興奮した様子で私を見た。彼の目は、まるで新しいゲームを発見したかのように輝いている。
「いやーそれほどでもー、すいれんはいつでも天才ですから~」
私は、得意げに胸を張った。まさか、本当にこんなスライムが作れるとは、私も思っていなかったけど。
ブラウニー「このおバカ!被害にあったらどうするねん!というかその無駄な技術はいったいどうしたらこんなもん作れるんじゃ!」
お姉ちゃんが、私の頭をコツンとげんこつを喰らわせた。
彼女の顔は、怒っているというよりは、呆れているといった表情だ。
授業は無事に終わり…4時間目に移動したいところだったが…ちょっとスライム事件があったので、ブラウニーお姉ちゃんに校長室へ連行された。
校長室の扉を開けると、そこにはタイタンおじさんが座っていた。彼の顔は、いつも以上に真剣だ。
ブラウニー「ということがあったんですよ、作成者なんだからしっかりとこの子の責任取ってよね!」
お姉ちゃんが、タイタンおじさんに今回の事件の顛末を説明した。
私がスライムを作ったこと、それが生き物みたいに動き出したこと、そしてミカンジュースで倒されたことまで、全部だ。
タイタン「どうやったらスライムをその発想に至って作るのかが俺がツッコミどころで知りたいんだが…」
タイタンおじさんは、頭を抱えている。
ブラウニー「どうやらスライムにプログラムを入れこんて作ったみたいですよ…」
お姉ちゃんの言葉に、タイタンおじさんの目が丸くなった。
タイタン「この…バカ!どこからそんなもん拾ってきたんだ」
タイタンおじさんの声が、校長室に響き渡った。
「ゲームコミックの付録で、モンスターを作れるC#コードがあるから、このゲームエンジンも同じそうだったからパクればこの世界でも作れるかなーって」
私は、正直に答えた。まさか、本当に動くとは思わなかったんだもん。ただ、ちょっと試してみたかっただけなのに。
タイタン「そんなもん作ったら学校が壊れるだろうが!」
タイタンおじさんの怒りの声が、さらに大きくなった。彼の額には、青筋が浮いている。
タイタン「とにかく今回の件はくろとに報告するから、懲罰は覚悟するように」
タイタンおじさんの言葉に、私はガーンと衝撃を受けた。くろとにお尻ペンペンされる!嫌いな食べ物を出される!考えただけで、ブルブルと震えてきた。
「そんな~!」
私は、思わず叫んだ。でも、タイタンおじさんは、もう私の言葉に耳を傾けてくれない。
このあと、すいれんはくろとにめちゃくちゃこってりしぼられた。
「ひいい…あのおにメイドにお尻ぺんぺんとか、嫌いな食べ物とか…」
私は、校長室を出てからも、ぶつぶつと文句を言った。
ブラウニー「当たり前だろ…人様に迷惑かけたんだからな」
お姉ちゃんが、呆れたように私の頭をポンポンと叩いた。
今回のことは、反省しないといけない。でも、ちょっとだけ、面白い経験だったことも、確かだ。だって、本物のスライムを作ったんだから!
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