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【ピーチライン編第1章第3話】教室がない学校

校門でのドタバタ劇を終え、にゃももは茫然自失といった状態で学園へと足を踏み入れた。すいれんちゃんが去っていった方向をぼんやりと見つめ、彼女が言っていた「複雑な関係性」という言葉が頭の中をぐるぐると巡る。

しかし、それも束の間、にゃももはすぐに別の問題に直面することになる。

「えーと、入学式の会場は…あれ?どこだったっけ?」

学園内は、外観から想像していたよりもはるかに広大だった。

広々としたエントランスホールに足を踏み入れると、天井まで吹き抜けになった開放的な空間が広がる。しかし、どこを見渡しても「教室」と書かれた案内板が見当たらない。

にゃももは、とりあえず人の流れに沿って歩き出した。しかし、そこにあるのは予想もしない部屋ばかりだった。

理科室音楽室イラスト室料理室多目的室職員室更衣室

どれもこれも、いわゆる「特殊な教室」ばかりだ。普通の学校なら、これらはほんの一部で、ほとんどのスペースは普通の教室が占めているはずなのに。

「あれ?教室なくない?」

にゃももは首を傾げた。なぜか一番数多いはずの教室が、どこにも見当たらないのだ。しかも、さらに歩き進めると、もっと奇妙な部屋が次々と現れた。

社会室3Dプリンター室金融研究会イラスト部料理部

「なんか見慣れない教室ばかり…っていうか、教室、本当にどこ!?」

困惑はピークに達した。どこを見ても、いわゆる「普通の教室」というものが存在しないのだ。こんなに広々とした空間に、一体どこに生徒たちが集まって勉強する場所があるというのだろう?あまりの広さに、にゃももは完全に道に迷ってしまった。右を見ても左を見ても、似たような廊下が無限に続いているように見える。

(ええ…どうしよう。もう入学式は始まっちゃってるんじゃないかな…)

不安で、にゃももは思わず俯いた。その時、頭上から元気な声が降ってきた。

「あ!いたいた!こんなところに!探したよ~!」

顔を上げると、そこに立っていたのは、にゃももと同じくらいの背丈で、明るい茶色の髪をポニーテールにした少女だった。彼女は、にゃももとは違う、鮮やかな黄色の制服を着ていた。

その制服は、一般的なブレザータイプではなく、動きやすさを重視したようなデザインだ。

「私ですか!?」

にゃももは指をさして尋ねた。まさか、自分を探している人がいるなんて、夢にも思わなかったからだ。

「そうよ!どう考えてもこの目立つピンク色しているあなたよ!」

少女はニッと笑って、にゃもものジャージを指さした。その言葉に、にゃももは少し気恥ずかしさを覚える。確かに、このピンクのジャージは目立つかもしれない。

「というかなんでジャージ姿?」

少女はにゃももの服装を見て、不思議そうな顔をした。

「あはは、ちょっと朝寝坊したらこの格好でうっかりと…」

にゃももは正直に答えた。正直すぎる回答に、少女は思わず吹き出した。

「まあそれはいいわ。それより、生徒会室へいくわよ」

「え?教室じゃないんですか?」

にゃももは思わず聞き返した。てっきり、自分が来るべき場所は教室だと思っていたからだ。

「何言っているんだ、この学園は教室なんぞ存在しない。いわば常に移動教室方式よ」

少女の言葉に、にゃももは雷に打たれたような衝撃を受けた。教室が存在しない!?そんな学校が、この世に存在するなんて!

「ええ!?じゃあ、椅子はないってこと!?」

にゃももはさらに驚愕した。教室がないなら、一体どこで勉強するのだろう?床に座って授業を受けるのだろうか?

「もちろんよ!だって持ち物はタブレットPC1つだけで完結できるし、それにこの学園は1人1人授業も部活も違うから、平均学習の元になる普通教室は無駄になるのよ」

少女は当然のように言い放った。その言葉の節々から、この学園の常識が、世間の常識とはかけ離れていることがうかがえる。タブレットPC一つで完結?椅子がない?一人ひとり授業も部活も違う?にゃももの頭の中は、疑問符でいっぱいになった。

「…というか、それでさまよっていたの?」

少女は、にゃももの様子を見て、呆れたように尋ねた。

「うん、お恥ずかしながら…」

にゃももは正直に答えた。まさか、自分が常識にとらわれて、こんな簡単なことに気づかなかったなんて。

「とにかく、校長を待たせたらあかんよ。今日は1人だけど、校長も経営で忙しいから早くね」

少女はそう言って、にゃももの腕を掴んだ。その力強い引きに、にゃももは思わずよろめいた。

(えええ!?なにこの学園!いろいろとしょっぱなからぶっ飛びすぎるんだけど!教室がないなんて信じられない…それに、校長先生がいきなりお出迎えしてくれるの!?)

にゃももの頭の中は、次から次へと湧き出る疑問と驚きでいっぱいになった。しかし、今は立ち止まっている暇はない。少女に引っ張られるがまま、にゃももは生徒会室へと向かっていた。生徒会室、という場所も、普通の学校ならあまり縁がない場所だ。一体、どんな場所なのだろう?そして、校長先生はどんな人なのだろうか?不安と同時に、この学園の「常識外れ」な部分に、にゃももは少しずつ興味を惹かれていくのだった。

廊下を歩く間も、少女はにゃももに説明を続けた。

「ちなみに私はブラウニー!あなたと同じくTITAN学園の生徒よ。あんまり気にしなくていいけど、一応、イラスト部の部長もしているわ」

「ブラウニーちゃん…イラスト部の部長…!すごいね!」

にゃももは素直に感嘆の声を上げた。イラスト部の部長といえば、部活の中心人物で、きっと絵もとても上手なのだろう。

「まあね。この学園では、みんながそれぞれの得意分野で活躍しているから、私もその一員ってだけよ。にゃももも、きっと何か得意なことがあるはずよ。それを見つけるのが、この学園での楽しみの一つになるはず」

ブラウニーの言葉に、にゃももは自分のことを考える。記憶がない今、自分に何が得意なのか、全く分からない。しかし、ブラウニーの言葉は、漠然とした不安の中に、一筋の光を灯してくれたようだった。

やがて、二人は大きな扉の前にたどり着いた。扉には「生徒会室」と書かれている。扉の向こうからは、わずかに人の気配が感じられた。

「さ、着いたわよ。緊張することはないわ。校長はね、見た目はちょっと怖いかもしれないけど、根はいい人だから」

ブラウニーはにゃももにウインクをすると、迷わず扉を開けた。にゃももはごくりと唾を飲み込む。新たな「常識外れ」の世界が、今、目の前に開かれようとしていた。

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