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【ピーチライン編第1章第7話】すいれんとおやつタイム!

波乱の入学式、そして奇妙なオリエンテーションが終わり、にゃももはすいれんに導かれながら校舎の廊下を歩いていた。頭の中は、生徒会長任命という衝撃的な事実と、この学園のあまりにも「非常識」なルールでいっぱいだった。

その時、にゃもものタブレットがピコン、と音を立てた。見ると、くろとからメッセージが届いている。

「本日の授業はこの道案内が終わり次第、解散してOKです」

メッセージを読んだにゃももは、思わず「へぇ…」と声が漏れた。本当に自由すぎる。授業という概念も、時間割という概念も、一般的な学校とは全く異なるのだと改めて思い知らされた。

道案内自体は、まだ始まったばかりだ。しかし、この学園の謎は深まるばかりで、気になることが山ほどあった。

特に、タイタン校長の不可解な行動や、自分の失われた記憶、そしてなぜか手元に潤沢にあるお金のこと。これら全てが、にゃももの好奇心を掻き立てていた。

「にゃももお姉ちゃん、お腹空いたでしょ?あっちにね、すっごく美味しい喫茶店があるんだよ!」

すいれんが、きらきらした瞳で私を見上げた。その言葉に、にゃももはハッとした。そういえば、朝から何も食べていなかった。

「うん、お腹空いたね!じゃあ、すいれんちゃん、その喫茶店に行こうか。私がおごるよ!」

にゃももは笑顔で答えた。タイタン校長から与えられたタブレットに、確かに潤沢な「学園通貨」がチャージされていることを確認していたからだ。どこから来たお金なのかは不明だが、使う分には問題ないだろう。

学園内には、至る所に食堂や喫茶店があった。それはまるで、広大なフードコートやショッピングモールの一角といった規模ではなく、一つの町全体に飲食街が点在しているかのような、驚くべき光景だった。和食、洋食、中華、ファストフード…あらゆるジャンルの店が軒を連ね、生徒たちは思い思いの場所で食事を楽しんでいる。

にゃももは、改めてお金のことについて疑問を抱いた。なぜか自分は、昔からお金については困ったことがない。もちろん、実家が裕福だったという、よくある経済格差の話ではない。むしろ、それとは無縁の、ごく普通の家庭だったはずだ。それに、この学園に転入してきたばかりの「プレイヤー」としては、初期装備の金額もさほど大きくないはずなのに。不正などできるはずもないし、するつもりもない。

(過去の記憶が思い出せないだけで、何か理由があるのかもしれない…)

そう考えつつも、今は考えるのをやめた。目の前のすいれんとの時間が、何よりも重要だったからだ。

すいれんが案内してくれた喫茶店は、学園の敷地の片隅にある、可愛らしい外観の店だった。扉を開けると、甘い香りがふわりと漂ってきた。店内は木目調の内装で統一され、ゆったりとしたソファ席が並んでいる。そして何より、にゃももの目を引いたのは、中央に設置された豪華なスイーツビュッフェ台だった。

「わぁ…ここって、スイーツ食べ放題のお店なの!?」

にゃももは思わず声を上げた。ショーケースには色とりどりのケーキ、タルト、プリン、シュークリーム、マカロンなどがずらりと並び、見ているだけで幸せな気分になる。

「うん!すい、ここ大好きなんだ~!」

すいれんは目を輝かせながら、真っ先にビュッフェ台へと駆け寄っていった。その小さな体が、キラキラと輝いているように見えた。にゃももも後に続き、好きなスイーツを皿に盛り付ける。

席に着くと、にゃももは早速、気になっていたことをすいれんに聞いてみた。


目次

選択肢回答

すいれんちゃんとタイタンの関係

「ねぇすいれんちゃん、さっきタイタン校長のこと、『おじさん』って呼んでたけど…タイタン校長とすいれんちゃんって、どういう関係なの?」

最初に会った時から、まるで本当の父と娘のように見えたが、同時に「おじさん」という呼び方には、どこか矛盾を感じていた。

すいれんは口いっぱいにショートケーキを頬張りながら、もぐもぐと答えた。

「んー…たしかに日本人の普通の感覚で見ちゃえば、すいとタイタンは父と娘みたいなもんだね」

やはり、そうなのか。にゃももは納得しかけた、その時だった。

「なんでおじさんって呼んでるかって?それはねー…」

すいれんは、にゃももに顔を近づけ、ひそひそ声で囁いた。

足臭いサラリーマンみたいなくささだからだよ!」

えっそこ!?

にゃももは思わず突っ込んでしまった。まさか、そんな理由だったとは。てっきり、血縁関係がないとか、複雑な家庭環境とか、もっとまともな理由があると思っていたのに。タイタン校長は、まさかそんな呼ばれ方をしていたとは夢にも思わないだろう。いや、知っていたら、あのくろとさんにまたビンタされているに違いない。


すいれんちゃんとくろとの関係

次に、にゃももはくろとのことを尋ねてみた。

「じゃあ、くろとさんは?すいれんちゃんのお母さんだったりするの?」

なんとなく、くろととすいれんの間に流れる空気には、母親と娘のような温かさがあったからだ。

すいれんは首を傾げた。

「ううん、くろとさんはね、タイタンおじさんのところのメイドさんとして雇われてるんだよ。だから、何の血縁関係もないの」

「メイド…!?」

にゃももは驚きを隠せない。現代において、家政婦のようなメイドを雇っている家庭など、アニメの世界でしか見たことがなかったからだ。しかし、このTITAN園は、まさにアニメの世界のような場所だ。それも納得できるかもしれない。

「でもね、くろとさんはすっごく優しくて、料理もめちゃくちゃ上手なんだよ!すいのご飯はいつもくろとさんが作ってくれるんだ~!」

すいれんは、くろとのことを話す時、とても嬉しそうな顔をした。血縁関係はなくとも、二人の関係が非常に良好であることが、その表情から伝わってきた。タイタン校長とくろとの関係も、まるでコントのようだが、これもまたこの学園の「個性」なのだろう。


すいれんちゃんの兄弟関係

そして、にゃももは、もう一つ気になっていたことを尋ねた。

「そういえば、すいれんちゃん、兄弟がいるって言ってたよね?何人いるの?」

すいれんは、にこやかに答えた。

「すいの兄妹は8人!上にオスが4人、メスが3人、つまり私は末っ子!の妹属性キャラよー!」

もっとまともな答え方なかったかしら…

にゃももは思わずツッコミを入れた。しかし、8人兄弟という言葉に、内心では驚きを隠せない。大家族だ。

「昔から、にぎやかなんだね」

にゃももはそう呟いた。

「うん!ちなみにストーリーの構成的に触れなかったけど、ブラウニーお姉ちゃんはうちら8兄妹の次女で、第3話の時に触れたように、お姉ちゃんはイラスト部の部長でもあるよー!」

すいれんの言葉に、にゃももは目を見開いた。ブラウニーが、まさかすいれんの姉だったとは。タイタン校長の「自由な校風」も、この大家族の育ちから来ているのかもしれないと、にゃももはふと思った。

「あなた、第3話の時いなかったでしょ!」

にゃももは思わずツッコミを入れた。メタ的な発言だが、この世界では許されるのだろう。

すいれんの兄弟は、上から順に、一番目の兄は「豪鬼」、二番目の兄「ゴールドコイン」、三番目の兄「グリーンリーブ」、一番目の姉「アクア」、そしてブラウニーが二番目の姉、四番目の兄「イオティ」、三番目の姉「ジュリア」、そして末っ子がすいれん、という構成らしい。

すいれんちゃんは、もっと兄弟たちのことを話したがっているようだったが、想像するだけで話が尽きないことが分かり、にゃももは適当なところで話を止めた。

「うんうん、みんな個性的で楽しそうだね!」


タイタンはなぜ私を生徒会長にしたのか?

最後に、にゃももは一番聞きたかった核心に触れた。

「ねぇすいれんちゃん、一番聞きたかったんだけど…タイタン校長、なんで私をいきなり生徒会長に任命したんだと思う?その、心理的な意味で…」

にゃももは、タイタンが自分に「運命」を感じたと言っていたことを思い出した。しかし、その真意がどこにあるのか、どうしても知りたかった。

すいれんは首を傾げ、口いっぱいに頬張っていたプリンを飲み込んだ。

「うーん…それについては、すいもよく分からないんだよね」

やはり、すいれんも知らないのか。にゃももは少し残念に思った。

「でもね、タイタンおじさんは、学園だとあんな感じだけど、家にいる時はいつも険しくて難しいことばかり考えてるみたいなんだ。すいには当然だけど、全く理解できない内容ばっかりで…」

すいれんの言葉に、にゃももはピンと来た。タイタン校長には、何か裏がある。この「生徒会長任命」も、単なる気まぐれではなく、何か大きな意図が隠されているに違いない。

(なんか…裏があるな…)

にゃももは、タイタン校長にしっかりと「目印」をつけた。この学園で、最初に解き明かすべき謎は、タイタン校長の真の目的かもしれない。


にゃももの疑問、そして決意

すいれんが質問に全て答えた後、今度はにゃももに問いを投げかけた。

「ねぇ、にゃももお姉ちゃん、どこから来たのか教えてほしいな」

すいれんの純粋な瞳に、にゃももは胸が締め付けられる思いだった。

「ごめんね、すいれんちゃん。実はね…私、自分がどこから来たのか、分からないんだ」

にゃももは、正直に打ち明けた。

「昔のことも、なぜか思い出せないの。でもね、思い出せない割に、色んな知識は頭に入ったままなんだ」

例えば、日本語を流暢に話せること。この世界での常識や、一般的な知識は持っている。それなのに、自分の過去だけが、ぽっかりと穴が空いたように抜け落ちているのだ。

そして、すいれんはもう一つ質問をした。

「もう一つ聞きたいんだけど、にゃももお姉ちゃん、なんで生徒会長を受け入れそうにしたの?普通なら、いきなりそんな責任を押し付けられたら、辞退するとか、逃げ出すとかが筋だと思うんだけど…なんで引き受けたのか、気になっちゃった」

すいれんの鋭い指摘に、にゃももは少し驚いた。やはり、ただの小学生ではない。タイタン校長が後継者として目を付けているだけのことはある。

にゃももは、少し考える。正直な気持ちは、もちろんあった。

「最初はね、あまりにも頭がおかしいから、逃げたいと一瞬感じたよ」

率直な気持ちを口にした。

「でもね、この学園に来てから、いろいろと気になる矛盾が多すぎるんだ」

にゃももは、タイタン校長の不可解な行動、自分の記憶の欠落、そして説明のつかない潤沢な資金のことなど、心の中で渦巻く疑問を思い浮かべた。

「だから…ある意味、これは作戦も兼ねて引き受けることにしたんだ」

にゃももは、自分でも驚くほど冷静に、そう答えていた。生徒会長という役目は重い。しかし、この役目を引き受けることで、この学園の、そして自分自身の謎を解き明かすための、絶好の機会になるかもしれない。

にゃももが心に秘めた「作戦」の目標は、大きく分けて二つ。

一つは、「タイタンの正体を暴く」こと。彼の真の目的は何なのか、なぜ自分を生徒会長にしようとするのか。その裏に隠された真実を突き止める。

もう一つは、「私がこの世界に来た経緯と、過去の記憶が出ないことの関係性、かつお金の謎」を解き明かすことだ。自分が何者なのか、なぜ記憶がないのか、この世界に来る前の自分は一体何をしていたのか。そして、この不可解なお金の出所。これら全ての謎を解明する。

この二つの大きな目標は、すいれんには口に出さないことにした。まだ、話すべき時ではないと感じたからだ。


――おやつタイム、終了――

色々な話をしているうちに、スイーツ食べ放題のお皿はみるみるうちに空になっていった。にゃももが最後に紅茶を一口飲んだ時、ふと、テーブルの上を見た。

「…………え?」

にゃももは、自分の目を疑った。目の前には、空になった皿が山のように積み重ねられていたのだ。しかも、そのほとんどが、すいれんの皿だ。

「す、すいれんちゃん…君、こんなに食べたの!?」

にゃももが驚いて尋ねると、すいれんは口の周りにクリームをつけながら、にこやかに頷いた。

「うん!だって美味しいんだもん!」

その言葉に、にゃももは思わず絶句した。自分の皿はたった2枚なのに、すいれんの皿は、軽く10枚を超えている。さすがに成長期の子どもとはいえ、これほど食べるとは。

(よかった…食べ放題で…)

心底そう思った。もしこれが個別会計だったら、間違いなく破産していたに違いない。

(こりゃあくろとさん、苦労しそう…)

にゃももは、すいれんの食欲と、それを受け止めるくろとの苦労を想像して、小さくため息をついた。この学園での生活は、思っていた以上に波乱に満ちたものになりそうだ。だが、同時に、どこかワクワクするような予感もしていた。

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