翌日。TITAN学園でのにゃももの2日目が始まった。
目覚めると同時に、にゃももは学園に向かうため着替えを始めた。無意識のうちに手に取ったのは、昨日も着ていたあのピンク色のジャージだった。特別な理由があるわけではないが、なぜかそのジャージは肌触りが良く、着心地が抜群に快適だったのだ。
(んー…やっぱこのジャージ、楽ちんだなぁ)
にゃももは、ごく自然にジャージ姿に着替えた。ピンク色だから、普通に見ればまるで私服のようだ。だが、この瞬間から、このピンクのジャージが、にゃもものデフォルトの服装となることを、彼女はまだ知る由もなかった。
今日からはいよいよ本格的な学習が始まるらしい。午前中はすでに、昨日と同じ生徒会室への集合が指定されていた。にゃももは、早速タブレットのワープ機能を使って生徒会室へと向かう。一瞬の視界の歪みと同時に、見慣れた空間へと転移した。
新たな出会いと生徒会長の決意
生徒会室には、すでにタイタンが立っていた。しかし、そこにいたのは彼一人ではない。見慣れない顔ぶれが5人ほどいる。くろととすいれんの姿は見当たらない。にゃももは、少し緊張しながらも、一歩足を踏み入れた。
タイタンはにゃももの姿を見るなり、にこやかに頷いた。
「よく来たな、にゃもも殿」
にゃももは、昨日一日の出来事と、生徒会長としての役目について、頭の中で整理していた。正直、いきなりの任命には戸惑いしかなかったが、この学園の謎を解き明かすためには、生徒会長という立場が何よりも好都合だと感じていた。
「あの…タイタン校長」
にゃももは、真っ直ぐタイタンを見つめて言った。
「私、正式に生徒会長として活動することをお引き受けします」
にゃももの言葉に、タイタンは満足げな笑みを浮かべた。にゃももは、その「引き受ける」という決断の理由を、建前として付け加えた。
「この学園を、もっと楽しく過ごしたいからです!」
その言葉に、タイタンはさらに深く頷いた。
「うむ!その意気やよし!期待しているぞ、にゃもも殿!」
タイタンは満面の笑みで答えた。そして、にゃももの視線が、まだ見知らぬ5人の人物に向いていることに気づくと、紹介を始めた。
「よし、では改めて、にゃもも殿に、今日ここにいる生徒会のメンバーを紹介しよう」
タイタンの言葉に、5人はにゃももに向かって軽く会釈をした。
生徒会メンバーの紹介
「まずはこちら、ましろだ」
タイタンが紹介したのは、白と緑色の学園制服を着た少女だった。彼女はにこやかに微笑んだ。
「はじめまして、にゃもも先輩。ましろと申します。生徒会の書記を担当しています。よろしくお願いします!」
ましろは丁寧な言葉遣いで、どこか知的な雰囲気を漂わせている。
「そして次はこちら、お前も顔見知りだな。瑠璃だ」
タイタンが指差したのは、昨日、ごうとからNFTカードを奪われそうになっていた少女だった。今日は私服姿だ。瑠璃は、にゃももに少しはにかんだように会釈した。
「昨日は助けてくださって、ありがとうございました…瑠璃です」
瑠璃は、まだ少し怯えているようにも見えるが、その目に宿る感謝の気持ちは伝わってきた。
「こちらは、生徒会の財務担当、クラウン」
次に紹介されたのは、茶色いスーツをビシッと着こなし、どこか渋い雰囲気の男性だった。タイタンより年上に見える。
「クラウンと申します。リアルでは会計士を努めておりますので、学園の金銭面は私にお任せください。至らない点もあるかと思いますが、精一杯務めさせていただきます」
クラウンは、真面目そうな表情で深々と頭を下げた。にゃももは、この学園の財政が彼に任されていると聞いて、少し安心感を覚えた。謎のお金についても、いつか彼に相談できるかもしれない。
「続いては、この学園のムードメーカー、しばぬん」
タイタンが紹介したのは、金髪の少女だった。彼女の頭には、ぴょこんと犬の耳が生えている。黄色のジャージ姿で、どこかだるそうにしている。
「…しばぬんですぅ~。仮想通貨とか、NFTとか、そういうの好きでぇ~…。よろしくっすぅ~…」
しばぬんは、気だるそうな声で、しかしどこか人懐っこい雰囲気で挨拶した。彼女の服装が、ブラウニーの制服の色と似ていることに、にゃももはふと気づいた。もしかしたら、彼女もブラウニーのように、特定の「部活」に深く関わっているのかもしれない。
「そして最後が、ロイだ」
タイタンが紹介したのは、ごく普通の私服を着た小学生男子だった。特に変哲もない見た目だ。
「ロイです。別にこれといって部活とかやってないんで、帰宅部です。でも、生徒会にはいます。よろしくっす」
ロイはぶっきらぼうに挨拶した。小学男子が生徒会にいるというのも、この学園ならではの「非常識」だろう。
タイタンは、これまでにゃももと会ったことのあるメンバーについても言及した。
「あとは、昨日の案内役を務めてくれたくろとも、もちろん生徒会のメンバーだ。一応経理として担当している。そして、今は長期不在で会う機会はないが、リューロンという副生徒会長もいる。今は俺がリューロンの代わりをしているんだ」
にゃももは、これでタイタンが常に生徒会室にいた理由が分かった。副生徒会長が不在のため、校長自らがその役目を兼任していたのだ。
「そして…今日ここにはいないが、昨日にゃもも殿の道案内を務めてくれたすいれんも、本日より生徒会の一員となることも伝えておく」
タイタンの言葉に、にゃももは少し驚いた。すいれんが生徒会に入ることになったのは、昨日の道案内の成果なのだろうか。それとも、タイタンが何か別の目的を持っているのだろうか。
生徒会の役割と新たな挑戦
これで自己紹介が終わり、タイタンは早速、生徒会長としての仕事について説明を始めた。
「にゃもも殿。生徒会というのは、本来ならうちの先生が責任を果たすべきだと言うだろう」
タイタンはとつぜんとのゆっくりと語り始めた。
「だが、うちは生徒の尊重と先生の責任の軽減を考慮して、生徒会とこの俺、校長が中心経済としている」
タイタンの言葉に、にゃももは目を見開いた。生徒会が、学園の中心経済を担っていると?それはつまり、学園の運営そのものに、生徒会が深く関わっているということだ。
「なので、生徒会はTITAN学園、ならびにTITAN園の世界における政治担当としての役割がある」
「え…」
にゃももは、その言葉に絶句した。「生徒会」という名前から想像できる、一般的な学校の生徒会の枠組みをはるかに超えている。まるで、国家の政府機関のような役割を担っているというのだ。
意味わかんねぇー!
「名前からして想像を超える枠組みだということを、理解してくれただろう」
タイタンはにゃももの反応を見て、満足げに頷いた。この学園は、ただの「自由な学園」ではない。それどころか、一つの独立した国家のような機能を持っているのだ。
「ただ、システム機能自体はAGI(汎用人工知能)として進化しているので、保守の問題は気にしなくて良い」
タイタンはそう付け加えた。AGI。
それは、人間のように学習し、思考し、問題解決を行うことができる究極のAIだ。
この学園のシステムが、それほどまでに高度な技術で構築されていることに、にゃももは再び驚かされた。
「生徒会は、既存のシステムの保守ではなく、常に新たな挑戦というのが最大の役割だ」
タイタンは、生徒会に課せられた使命を明確に語った。
それは、このTITAN学園、ひいてはTITAN園という広大な世界を、さらに発展させていくための「創造」と「革新」の担い手となること。
にゃももは、自分が引き受けた生徒会長という役目の、あまりにも壮大なスケールに、改めて圧倒されていた。これは、単なる学校生活の延長ではない。まさに、この世界の未来を左右する、重要な役割なのだ。
(これが…私の「自分探し」の答えに繋がるのかな…)
心の中でそう呟きながら、にゃももは、目の前に座る新たな生徒会メンバーたちをゆっくりと見渡した。彼らと共に、この規格外の学園で、一体どんな「新たな挑戦」が待っているのだろうか。にゃももの胸の中に、大きな期待と、そして微かな不安が入り混じっていた。
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