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【ピーチライン編第1章第12話】再び現る

生徒会室での怒涛のオリエンテーションを終え、にゃももは昼食を取るためにレストラン街へと向かった。ワープ機能を使えば一瞬で移動できるものの、にゃももは敢えて徒歩を選んだ。

この広大な学園に少しでも慣れておきたい、という思いがあったからだ。ブラウニーやクラウン、しばぬん、ロイといった新しい生徒会メンバーたちと別れ、一人で廊下を歩く。

生徒会長という重責を担うことになったが、不思議と気分は軽かった。むしろ、この学園の謎を解き明かすための第一歩を踏み出したことに、密かな興奮を覚えていた。

昼時ということもあり、廊下には多くの生徒が行き交っている。カフェテリアから漂ってくる美味しそうな匂いに、にゃもものお腹がぐぅ、と鳴った。

その時だった。

にゃももの目の前に、突然、何者かが立ちはだかった。その小柄な体躯と、怒りに満ちた顔を見て、にゃももは昨日の出来事を瞬時に思い出した。

「やい!てめぇ!昨日は良くもやってくれたな!おかげさまで停学処分を喰らったぜ!」

現れたのは、紛れもなくあのごうとだった。彼の顔は怒りで真っ赤になり、全身から敵意が発散されている。にゃももは内心で(当たり前だろ…)と呟いた。自分の行いを棚に上げて逆ギレする姿に、にゃももは呆れてしまう。

ごうとは、にゃもものせいで停学処分を食らったことに激しい怒りを覚え、その鬱憤を晴らそうとしているようだった。

「女であろうと今は多様性時代だ!容赦なくボコすぜ!」

ごうとが拳を振り上げながら叫ぶ。にゃももは、その言葉に思わず(多様性の意味…わかっている?)と心の中でツッコミを入れた。多様性という言葉を、都合よく暴力の言い訳に使っていることに、にゃももは不快感を覚えた。

にゃももは冷静に、ごうとに語りかけた。

「あのさ、自分がやったことが犯罪になるっていうことを知らない?ましてや、それを人のせいにする他責思考なんてダサすぎるよ」

にゃももは、言葉を選びながらも、はっきりとごうとの非を指摘した。

「しかも、停学処分の身だよね?それを暴力で打ち消そうなんて、小学生でもわかるぐらいヤバいことの話だよね?」

にゃももは、あくまで冷静に、しかし毅然とした態度でごうとに向き合った。

「私は正直、あなたと喧嘩をしたくありません。こんなところでトラブルを起こして、自分の人生を壊す巻き込み行為は避けたいですから」

にゃももの言葉は、まるで大人と子供の対話のようだった。しかし、ごうとにはその言葉は届かない。怒りで我を忘れているようだ。

「じゃあ、壊してやるよ!」

ごうとの目が血走り、再び拳を振り上げた。攻撃が来る――そう思った瞬間、にゃももは反射的に身をひねった。ごうとの拳は、にゃももの横をかすめ、空を切る。

ごうとは驚いたように目を見開いた。その表情には、これまでの自信が揺らいでいることが見て取れる。これまで、ごうとの攻撃を避けた相手はまずいなかった。皆、不意打ちの攻撃に反撃すらできず、一方的に打ちのめされておしまいだったからだ。攻撃を避けられたのは、今回が初めてだったのだ。

周囲で様子を見ていた生徒たちからも、ざわめきが起こった。

「す、すげぇ…あいつの攻撃を避けたとは…」

「あら…にゃももお姉ちゃんって、本当に只者じゃないね」

すいれんの声が聞こえた。どこか楽しそうに、にゃももの行動を評価しているようだ。

「そんなことより通報よ!先生に伝えなければ!」

あい、という生徒の声も聞こえる。ごうとの悪行は、学園内で知れ渡っているらしい。

それからしばらく、ごうとは執拗ににゃももに拳で殴りかかろうとしたが、にゃももはまるで踊るように、その攻撃を全てかわし続けた。ごうとの拳は、一度としてにゃももに当たることはない。

「なんなんだこいつ…ちっとも俺様の攻撃が当たらねぇ…!」

ごうとは、次第に焦りの色を濃くしていく。疲労困憊といった様子で、息を切らし始めている。

にゃももは、ごうとの攻撃を冷静にかわしながら、彼の動きを分析していた。

「攻撃の速度が遅いのよ」

にゃももは、まるで武道の師範のように、ごうとに指摘した。

「ごうとさん、あなた、今まで武力とかではなく、脅迫で相手を攻めていましたよね?冷静に考えれば、避けるコツを知っていれば、かわし方なんて簡単ですよ」

にゃももの言葉に、ごうとはハッとしたように顔を上げた。その目には、動揺の色が浮かんでいる。にゃももの指摘は、彼の核心を突いていたのだ。これまでのごうとのやり方は、相手が怯むことを見越しての「見せかけの暴力」だった。だからこそ、実際に攻撃をかわされる経験がなかった。

「ピンクのメスガキのくせに…ずるいぞ!」

ごうとは、もはや理屈ではない、子供じみた言葉で叫んだ。

「あと…人に攻撃で押し通そうという考え、本当にいい加減改めたほうが良いですよ。自分の立ち位置的…いや、軸の見直しを根本的に考え直すことを」

にゃももの言葉は、もはや喧嘩の範疇を超え、哲学的な示唆を帯びていた。

ごうとの表情は、見る見るうちに動揺で歪んでいく。これまでの生徒たちであれば、ごうとの一方的な攻撃に、諦めて打ちのめされるだけだった。

そのあまりに攻撃的な言動から、彼の脳に何らかの障害があるのではないかと疑問視する声さえあったほどだ。しかし、今のごうとの動揺は、にゃももの言葉が彼の内面に、何かを揺さぶり始めたことを示唆していた。

(なぜモノを盗むのか?そのモノを盗んで何になるのか?)

にゃももは、ごうとの行動の真意を探ろうとした。遊びたい、コレクションにしたいというなら、子供の心として理解できる。

しかし、攻撃も一切していない自分に向かって逆ギレしてくるのは、どう考えてもおかしい。

何か、があるに違いない。

その時だった。

「ごうと!停学処分しているのに学園に来るとはどういうつもりだ!」

地を這うような低い声が響き渡り、人ごみが割れる。そこに立っていたのは、昨日ごうとを捕まえた、あの強面の男だった。

「祖、その声は…ゴールドコイン先生!」

ごうとが、先ほどの威勢はどこへやら、完全に怯えきった様子で叫んだ。

先生?そういえば、すいれんの兄は「ゴールド兄ちゃん」だったはずだが…。

ゴールドコインは、ごうとの前にゆっくりと歩み寄った。その威圧感は、ごうとを完全に圧倒している。

「今日という今日は絶対に許さない。親にも厳しく指導をするように、指導員室までご同行してもらおうか」

ゴールドコインの言葉に、ごうとは顔を青ざめさせた。指導員室、そして親への指導。それは、彼にとって最も避けたい事態だったのだろう。

「ひいいい!」

ごうとは再び悲鳴を上げて逃げ出した。しかし、昨日と同じように、ゴールドコインに追いつかれ、あっという間に捕まってしまった。

「クソ!マジで覚えていろよ!この次は絶対にギタギタにしてやる!」

ごうとが抵抗するように叫ぶが、ゴールドコインは一切耳を貸さない。

「うるせぇ声を上げるな。お前は危機ということを認識しやがれ」

ゴールドコインは、ごうとの襟首を掴み、そのまま指導員室へと連行していった。


ごうとが去っていくと、周囲にいた生徒たちの視線が、一斉ににゃももの方へと向いた。ざわめきが大きくなる。

「もしかして、噂の新入りの生徒会長!?」

「すいれんちゃんから、すごい実力者の可能性があるって聞いていたけど、本当だったんだ…!」

生徒たちの声が、にゃももの耳に届く。にゃももは、急に注目を浴びて、たじろいでしまう。

「え、えーと…」

そういえば、私はなぜごうとの攻撃を全て避けられたのだろう?昨日の記憶は曖昧なのに、身体は自然と反応していた。まるで、元々そういう能力を持っていたかのように。そして、その能力を使って、ごうとを避けていたことを、自分は「知って」いた。

にゃももは、どうしようかと迷っていた。この学園は「推し要素が強い」らしい。

つまり、目立つことで、生徒たちの「推し」の対象になりやすいということだろうか。

(まさか、こんな形で注目を浴びるなんて…。生徒会長として、ちゃんと振る舞わなきゃいけないんだけど…どうすればいいのよ、私!)

にゃももは、新たな局面を迎えた自分の状況に、戸惑いを隠せずにいた。

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