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【ピーチライン編第1章第14話】良くない噂話

にゃももたちは料理部が運営する中華店へと足を踏み入れた。店内は活気に満ちており、食欲をそそる香りが漂っている。席に着くと、店員が笑顔で声をかけてきた。

「ご注文がお決まりでしたら、この学園タブレットで押してください!なお、当店は注文するごとに即時決済する仕組みです」

店員の言葉に、すいれんが首を傾げた。

「即時決済??」

「注文したら一瞬でお金を払うということよ。買い物とかと一緒ね」

にゃももが分かりやすく説明すると、すいれんは「なるへそ~!」と目を輝かせた。

「まるでデビットカードみたいだね」

かずまの言葉に、にゃももは内心で(今どきの小学生ってデビットカードを知っているんだ…)と感心した。この学園の生徒たちは、知識レベルも普通の子供とは一線を画しているようだ。

それぞれがタブレットで注文を済ませる。すいれんの注文は、にゃももを驚愕させた。

「ラーメン特盛に、ぎょうざ20個、チャーハンメガ盛り、あとデザートに杏仁豆腐5個!」

隣で見ていた料理部員も、すいれんの尋常ではない量に思わず「え…」と声を漏らしている。

かずまも「大盛り」を頼んでおり、育ち盛りな様子が伺えるが、瑠璃は少食で、控えめな量の料理を注文していた。やはり、すいれんちゃんはかなりの大食いらしい。

しばらくすると、注文した料理が次々と運ばれてきた。すいれんの料理はあまりにも量が多すぎて、テーブルが料理で埋め尽くされていく。四人分の料理とは思えないほどだ。

「いっただきまーす!」

すいれんの元気な声と共に、皆で食べ始めた。麺をすすり、ご飯をかき込むすいれんの姿は、見ているだけで気持ちがいい。

食事が進む中、すいれんとかずま、瑠璃が何やら噂話を始めた。


目次

校舎を徘徊する男と消える農作物

「ねぇねぇ、最近、学園で変な噂があるんだよ」

瑠璃がひそひそ声で話し始めた。にゃももは耳を傾ける。

「校舎の外に、夜に徘徊している人がいるって話なんだ」

「徘徊?」

にゃももは眉をひそめた。

「うん。毎日ではないみたいなんだけど、夜になると校舎の周りをウロウロしている目撃情報があるんだって。校舎の外だけじゃなくて、別の場所にいることもあるらしいよ」

瑠璃は真剣な表情で話す。

「それが、身長が150cmぐらいの男だったような…って言われてるんだ」

かずまが口を挟んだ。

「でも、大人の男の人にしてはかなり小さいし、未成年なんじゃないかって噂されてるんだよ」

「夜は確かに昼に比べて危ないやつが多いっていうのはよく聞くし、メタバースでも不思議じゃないな」

かずまは、このメタバース世界での「夜」の危険性を指摘した。

「酔っぱらいのおっさんがふらついているだけなんじゃないかな??」

すいれんが、のんきな声で言った。その楽観的な意見に、瑠璃は首を横に振った。

「それだけだったら、生徒会も問題に挙げないと思うよ」

瑠璃の言葉に、にゃももはハッとした。生徒会が問題に挙げているということは、ただの徘徊では終わらない、もっと深刻な事態なのだろう。

「さらに不可解なのは、農業部の農作物が毎日のように一晩で消えてしまうことなんだ」

瑠璃の言葉に、にゃももは思わず箸を止めた。農作物が消える?

「カラスとか動物が荒らした形跡もないし、食べ散らかす痕跡もないんだって」

かずまが付け加えた。それは確かに奇妙な話だ。動物が荒らすなら、食べ残しや散らばった痕跡があるはずだ。

「監視カメラで確認しようとしたらしいんだけど、農業部のところは人が少ないからか、サーバー負荷軽減の観点から置かれていないんだって」

瑠璃の説明に、にゃももは納得した。この広大なメタバース空間で、全てをリアルタイムで監視するのは、やはり技術的な限界があるのだろう。

(アニメの世界のようにずっとチャンク表示をするのが理想だけど、仕様的に見えない部分は処理をしないような仕組みになっているのか…まだハードウェア的に追いついてないから、技術的な問題があるってことね)

にゃももは、昨日のオリエンテーションでくろとさんが話していたことを思い出す。この学園のシステムは高度だが、完璧ではないのだ。

「それをうまく利用しているのか、農業部の食品を中心に、農作物がきれいに消えてしまうことが起きているらしいんだ」

「それってこの学園の中に泥棒さんがいるんじゃ?」

すいれんが、まるで推理小説の探偵のように言った。

「そうしか考えられないよね。この学園は意外と入るところにも警備装置があり、外部者は入れないはずだもの」

にゃももは、外部者が侵入する可能性は低いと考えた。つまり、犯人は学園の内部にいるということになる。

「大人の問題だから、子供たちは気にしなくていいって言われてるんだけどね。でも、せっかく作った農作物が盗まれると、いろいろと問題が多いんだ」

かずまがそう言った。

「というのも、この学園の野菜は料理部にもよく使われるんだ。もちろん、この中華店も使っているんだよ」

瑠璃の言葉に、にゃももはさらに真剣な表情になった。自分たちが今食べている料理も、もしかしたら盗まれた農作物で作られている可能性があるということだ。それは看過できない問題だ。


消える農作物と夜の徘徊者

食事を終え、中華店を後にした。にゃももは、まだ口の周りにチャーハンのご飯粒をつけたまま、満足そうにしているすいれんを見て、小さく息を吐いた。

「すいれんちゃん…すごい大食いね…」

そして、頭の中では、昼食中に聞いた噂話がぐるぐると巡っていた。

(夜に学園の周りを徘徊する、身長150cmくらいの未成年くらいの男。そして、農業部から毎晩のように消える農作物。この二つの出来事、どう考えても同一人物の犯行よね?)

にゃももは、思考を巡らせる。

(けど、夜の徘徊者が農作物を盗んでいるとしたら、少し変だわ。なぜわざわざ『徘徊』するのか。農作物を盗むだけなら、もっと効率的な方法があるはず。へんな動きは、かえって目立つし…)

ごうとのように、暴力的で目立つ行為をする人物とは、タイプが違うように思える。

もしかしたら、その「徘徊」自体に、何か別の意味があるのだろうか。

「ちょっと、様子を見るか…」

にゃももは、小さく呟いた。生徒会長として、この学園で起きている問題に、見て見ぬふりはできない。

ましてや、自分の目の前で起きたトラブルだ。

(タイタン校長や、くろとさん、そして生徒会のメンバーは、この件についてどれくらい知っているんだろう?そして、この謎の徘徊者と農作物の盗難、本当に解決できるのかな…)

新たな謎が、にゃももの心の中に芽生えた。

この学園での「生徒会長」としての役割は、想像以上に大変なものになりそうだ。だが、同時に、彼女の好奇心と、真実を解き明かしたいという強い思いが、にゃももの胸の中に燃え上がっていた。

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