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【ピーチライン編第1章第20話】うち明かす自分の特性

ごうとはベンチに座り、重い過去をにゃももに打ち明けた。彼の言葉は、にゃももの胸に深く突き刺さった。彼がなぜ今のようになったのか、その根源にある悲しみと苦しみが痛いほど伝わってきた。

「それからっていうもの、俺は暴力が抑えられなくなっていた。気づけば、どんどんと暴走しまくるようになり、すぐに怒り出すようになって…」

ごうとの声は、悔しさで震えていた。彼は自分をコントロールできないことに苦しんでいたのだ。にゃももは、ごうとの言葉を注意深く聞いていた。そして、あることに気づいた。

「ねぇ、ごうとくん。それって思うんだけど、衝動的なものを抑えられない…ってこと?」

にゃももの問いかけに、ごうとはハッとしたように顔を上げた。

「そういえば…俺、昔からいつも何も考えず、いつも先に手を付けてしまうっていう印象だ。暴力を振るようになる前から、何かをやるときはいつも考えずに…いつも怒りやすいし…」

ごうとは、にゃももの言葉が自分の特性を言い当てていることに気づいたようだった。にゃももは、真剣な眼差しでごうとを見つめ、ゆっくりと口を開いた。

「怒らないで、真剣に聞いてほしいんだけど…ごうとくん、もしかしたらADHDっていう可能性もあるんじゃないかな」

「ADHD?なにそれ?」

ごうとは、聞き慣れない言葉に首を傾げた。

「簡単に言うと、生まれ持った脳の特性のことよ。集中力が続かなかったり、衝動的に行動してしまったり、忘れっぽかったり…色々な症状があるんだけど、ごうとくんの話を聞いてると、もしかして、って思ったの」

にゃももは、ごうとが理解しやすいように、慎重に言葉を選んで説明した。彼の行動の原因が、単なる「悪さ」ではない可能性があることを伝えたかったのだ。

「それはね、一度、お医者さんに診てもらうことをお勧めするわ。メンタルクリニックとかね」

にゃももは、ごうとが安心して話せるように、優しい声で続けた。

「自分一人で暴力を抑え込むことは、解決が難しいことだと思う。人の脳には、先天性的に普通の人とは全く異なる特性を持っている人がいるって、私も聞いたことがあるから」

ごうとは、にゃももの言葉に驚きを隠せない。自分の行動が、生まれ持った特性によるものかもしれないという発想は、彼には全くなかったからだ。

「だから、病院の先生に、自分の傾向のことをしっかり聞くことをお勧めするわ。でもね、一つ注意しなければいけないことがあるの」

にゃももは、ごうとの目を見て、はっきりと告げた。

「もし、あなたがその特性を持っていると診断されたとしても、怒らないこと。それは、あなたが悪いわけじゃないの。それは、あなたを『直す』ためじゃなくて、あなた自身のことを深く知るためのことだから」

にゃももは、ごうとの心に寄り添うように語りかけた。

「あなたは『害を持った危険な存在』なんかじゃない。ただ、他の人とは違う、できないことに障壁がある、というだけのことなの」

にゃももの言葉は、ごうとの心にじんわりと染み渡った。彼は、これまでずっと「悪い子」だと言われ続けてきた。自分の行動が制御できないことに、誰よりも彼自身が苦しんでいたのだ。にゃももの言葉は、そんな彼の心を、初めて解き放つものだった。

「だけど、もしかしたらごうとくんは、それを知っておくことのメリットを理解していないかもしれない」

にゃももは続けた。

「自分自身の特性を知っておくことで、それがあなたにとっての**『自分軸』に見える一つの判断基準**になる。これからのあなたの生き方を、自分で決めていくために、とても大切なことなのよ」

にゃももは、ごうとに、希望の光を示した。それは、過去の絶望から抜け出し、未来を自らの手で切り開いていくための道筋だ。

ごうとは、初めて涙を流した。それは、悲しみや絶望の涙ではなく、心の奥底から湧き上がる、純粋な感謝の涙だった。

「…ありがとう」

ごうとは、震える声でそう呟いた。しかし、同時に、彼の中にはにゃももに対する、ある種の驚きと困惑があった。

「でも…本当に同級生かよ!?

ごうとは、にゃもものあまりにも大人びた言動と、自分を深く理解しようとする姿勢に、思わずそう突っ込んだ。

「私、17歳です!」

にゃももは、少し得意げに胸を張って答えた。しかし、その答えにごうとはさらにツッコミを入れた。

「いやどっちにせよ!俺と同じ子供じゃねぇか!

ごうとの言葉に、にゃももは苦笑いを浮かべた。確かに、彼から見れば自分もまだまだ子供なのだろう。しかし、そのやり取りの中に、にゃももとごうとの間に、確かな信頼関係が芽生え始めていることを感じた。


目次

新たな手がかりと夜の行動

ごうとが少し落ち着いたところで、彼は気になっていたことをにゃももに尋ねた。

「ところで、お前、なんで俺のあとをつけたんだ?」

にゃももは、正直に答えた。

「最近、ここ数日深夜の時間帯で、この辺の農業部の野菜が盗まれているっていう事件が起きてて、それで生徒会の間で、夜にあなたがふらついているみたいだったから調べていたんだけど…」

にゃももは、ごうとの顔をじっと見つめ、彼の言葉と態度から得た確信を口にした。

「どうも、ごうとくんは明らかに違うよね…」

にゃももの言葉に、ごうとは驚いたような顔をした。しかし、すぐに彼は納得したように頷いた。

「俺様は料理が作れないから、生の野菜なんて取る気がない」

ごうとの言葉に、にゃももは確信を得た。やはり、ごうとは犯人ではない。彼の盗みは、親の命令によるものであり、その対象はNFTなどの「金になるもの」だったのだ。野菜を盗む動機がない。

「となると…別にいるってことか…」

にゃももは、新たな真犯人の存在を確信した。ごうとは、ただの「徘徊者」に過ぎなかったのだ。

「そういえば、俺、お前以外で、この辺にうろついているやつが姿を見たな」

ごうとの言葉に、にゃももは身を乗り出した。

「え!?本当!?特徴は!?」

ごうとは、記憶を辿るように、うーんと唸った。

「うーん…お前がインパクトありすぎて、マジで影が薄くてあんまり覚えてないけど、少なくともお前や俺様よりもデカイ女の姿だった気がする」

にゃももの存在感が強すぎて、他の人物の印象が薄い、というごうとの言葉に、にゃももは思わずカチンと来た。

「それどういうことよ!私そんなチビじゃないし、派手な動きしてないもん!」

ごうとの言葉に反論しつつも、にゃももの頭の中では、新しい情報が素早く処理されていた。「デカイ女の姿」。それは、今までとは全く異なる犯人像だ。

「女の人…?ふむふむ…これはもしや、家計をケチケチとやりそうな感じがしますね…」

にゃももは、まるで名探偵のように腕を組み、推理を始めた。

「家計?なんだそりゃ?俺みたいに食材がなくて盗んで食べるんじゃないのか?」

ごうとは、にゃももの推理に疑問を投げかけた。彼にとって、物を盗む理由は、親の命令か、生きるための飢えかのどちらかだったからだ。

「盗みを働く女性の場合、たいていは家計の支出をケチるために動いていることが多いのよ。基本的に、野菜とか1本や2本盗んでも、大してお金の収入にはならないけど、食費の支出を抑える効果はとても大きいからね」

にゃももは、社会的な知識を基に、冷静に分析した。この知識も、どこから得たものなのかは分からないが、にゃももの頭の中には確かに存在しているのだ。

「なんだかよく分かんねぇけど、お金を守るために盗みを働いているってことか」

ごうとは、にゃももの説明に、なんとなく納得したようだった。

「だいたいそれであってるよ」

にゃももは、ごうとの言葉に頷いた。

「ということは、もうすでに実行犯はすでに動いているのね!向かわなくちゃ!」

にゃももは、立ち上がった。新たな真犯人の存在が明らかになった今、躊躇している暇はない。ごうとの告白により、事件の様相は大きく変わった。彼女は、生徒会長として、この学園で起きている問題に、真正面から立ち向かうことを決意した。

ごうとは、そんなにゃももの背中を、ただ静かに見つめていた。彼の心の中には、にゃももへの感謝と、そして、彼女が示す「正しい道」への希望が、確かに芽生え始めていた。

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