生徒会の活動を終えたにゃももが、ぐったりとした様子で自室に戻ってきた。TITAN学園の中心地にあるこの部屋は、彼女の仕事場であり、憩いの場でもある。しかし、今日はその部屋で、思わぬ人物が彼女を待ち構えていた。
「ふはぁ~、ようやく生徒会の仕事終わった~。」
にゃももが椅子に腰を下ろすと、部屋の隅でオセロ盤を抱えていたすいれんが、にこやかに話しかけた。
「おきょく様って大変だね…。」
「すいれんちゃん、それを言うなら**『おつぼね』**。それに私はまだ生徒会デビューしてからそんなに経ってないのよ…。」
にゃももは、まだ「おつぼね」と呼ばれるには早すぎると、少しむくれた表情で訂正した。
「エリートはやっぱ大変なのね。」
すいれんは、感心したように頷く。その様子に、にゃももはため息をついた。
「覚えることも多いし、出世はしない方が楽だよ、すいれんちゃん。」
にゃももの言葉に、すいれんはにっこりと笑い、手に持っていたオセロ盤を差し出した。
「ほうほう、そんな白黒にいま染まっているにゃももお姉ちゃんにはこれ!」
「オセロ!?」
にゃももは、オセロ盤を差し出されたことに驚き、そして「白黒」という言葉に首を傾げた。 (白黒がどうして出てきたのかが意味わかんないけど…てかどこから出してきたの!)
「そう!今からオセロで遊ぼう!」
すいれんは、にゃももの返事も聞かず、やる気満々だ。
「あはは、ごめんね、私はもうぐったりで…。」
にゃももは、なんとかその場を逃れようと試みた。しかし、すいれんはその手を許さなかった。
「大丈夫!そういうときは栄養ドリンクで!解決だ!なにせパワーがみなぎる男前ドリンク!」
すいれんは、冷蔵庫から取り出した栄養ドリンクを、にゃももの目の前に突き出した。 (うわ…これは逃げられなそうだ)
結局、にゃももはすいれんの勢いに押し切られ、オセロで遊ぶ羽目になった。
オセロ盤を前に座ると、にゃももは違和感を覚えた。 「あれ?なんか色が変なんだけど?」
オセロのコマは、通常は白と黒のはずだが、目の前のコマは、一方がピンク色で、もう一方が水色だった。
「ああこれ?プログラムで色を塗り替えた!」
すいれんは、得意げに胸を張る。にゃももは、その発想に驚きながらも、 (こういう才能、オセロの駒をいじる以外にもっと他に使うところがあるんじゃないかしら…)と心の中でツッコミを入れた。
「お姉ちゃんから先どうぞ~。」
「ではお先に失礼します!」
ゲームが始まった。にゃももは、すいれんの顔をじっと見つめ、彼女の思考を読もうとする。 (何を考えているんだろう…)
一方、すいれんは、にゃももが置いたコマを見て、ニヤリと笑った。 (この手先は…勝ったな!)
ゲームは進み、しばらくの間はにゃももが優勢だった。しかし、いくつかのターンを過ぎると、すいれんは大きく巻き返しを始めた。
にゃももは、盤面がどんどん水色に染まっていくのを見て、驚きを隠せない。 「え…うそでしょ…!」
にゃももは、すいれんの巧妙な戦略に感心しながらも、必死に思考を巡らせる。 (仕込みがあるとはなかなかやるな…10歳の子の思想はどんなものか考えろ私、何か弱みがあるはず!)
にゃももは真剣な顔つきになった。生徒会の仕事で培った洞察力と、論理的な思考力がフル稼働する。そして、ついにその弱点を見つけた。
「そこだ!」
にゃももが置いた一手に、すいれんの顔から笑顔が消えた。 「な!?」
すいれんの瞳が、驚きと焦燥に満ちる。 (そこを攻めるとはお姉ちゃんやるな…!けど…この石は…!)
すいれんは、にゃももが置いた石の周りを囲むように、最後のコマを置いた。
「ほいっと!」
その一手に、盤面の多くのコマが一気に水色に変わっていく。にゃももの顔から血の気が引いた。
「ああああああああああああ!」
「勝負アリですな…!」
すいれんは、満面の笑みで勝利宣言をした。
「そんな…盲点だった…!」
にゃももは、悔しそうに頭を抱える。すいれんは、そんなにゃももに優しく語りかけた。
「いやぁ~、すいれん、お姉ちゃんもなかなかいい勝負だったよ!おじさんなんてすぐに負けるから、勝ってもつまんなかったし。」
「どんだけ遊びまくっているねん!…くそ~、悔しい!もう1回だ!」
にゃももは、負けず嫌いな一面を露わにし、再戦を申し込んだ。すいれんは、そんなにゃももの姿を見て、楽しそうに笑う。
「おやおや、小学生相手に悔しがる顔もなかなかかわいいですな~。」
「すいれんちゃん、本当に小学生かよというぐらいいやらしい!!!」
にゃももは、すいれんのからかいに、もはや叫ぶことしかできなかった。
2回戦が始まった。
しかし、2回戦はすいれんの圧勝だった。
「はい、K.O.だね!」
すいれんは、あっという間に勝負を決めてしまった。にゃももは、ぽつりとつぶやく。
「あとちょっとだったのに…。」
「いやぁ~、良い攻めだったけど、肝心なところだよね~!」
すいれんは、にゃももの悔しさをさらに煽るように言った。にゃももは、天を仰いだ。
「一体どれぐらいの積み重ねたんだろう、この子は…。」
にゃももの疑問に、すいれんは即答した。
「うーんと…ざっと100時間以上?」
「どんだけ遊びまくっているんだよ!暇人かよ!」
にゃももは、すいれんの莫大な時間に、思わず絶叫した。しかし、すいれんは気にしない。
「だって学校の授業、すいには簡単すぎてつまらないし…そんな暇があるなら、遊びまくったほうが時間有効的にいいよね~!」
すいれんが、胸を張って持論を展開したその時だった。
「そうかそうか~、そんなに簡単か…。」
背後から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。すいれんは、ビクリと肩を震わせる。
「げ…その声は!」
そこに立っていたのは、いつの間にか戻ってきていたタイタンだった。彼の顔には、どこか怒りがにじみ出ている。
「すいれん!栄養ドリンクを冷蔵庫から勝手に取り出したのをお前だろ!」
その言葉に、にゃももはハッとした。 (え?それって今私が飲んだやつよね…)
すいれんは、顔を青ざめさせた。 (あ…やべっバレた!)
「えー、でも150円ぐらいのものなんだしー、別にそれはまた買えばいいじゃん!」
すいれんは、なんとか言い訳をしようとする。しかし、タイタンは怒りを露わにする。
「何を言うねん!これ1本1000円以上もかかる代物だ!」
タイタンの言葉に、にゃももは口をあんぐりと開けた。 (えーー!?栄養ドリンクって今これぐらいかかるの!?)
にゃももは、恐る恐る手を挙げた。 「あのー、それ私が飲んじゃいました…。」
タイタンの視線が、にゃももに突き刺さる。 「ああ…お前が飲んだのか…!」
タイタンは、がっくりと肩を落とした。そして、二人に向かって指をさした。 「お前ら2人共、弁償しろ…!」
すいれん、にゃもも「そんな~!」
(なんで私まで!)
にゃももは、自分の不運を呪うしかなかった。その光景を、部屋の入り口から見ていたくろとが、冷ややかな視線を向けた。
「やれやれ…というか、お金の無駄ですよ…。」
くろとの言葉が、タイタンの胸に突き刺さる。TITAN園の平和な日常は、今日もまた、思わぬ騒動に巻き込まれるのだった。
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