時間はまるで飛ぶように過ぎ去り、気づけばあっという間に卒業式の日が訪れていた。
まだ桜が咲いていない、冬の寒さが残る季節。俺の高校の卒業式は3月上旬だったので、身を切るような冷たい風が吹く日も珍しくなかった。
校舎の周りの木々はまだ芽吹き始めておらず、どこか寂しげな風景だった。しかし、そんな中でも、卒業を祝う空気は確かにそこにあった。
「Youtuberになる!」:声に出した夢と、周囲の反応
少し前のことだが、卒業を控えたある授業で、生徒全員が「将来の夢をでかい声で話そう」という企画があった。
一人ずつ前に出て、自分の夢を語るのだ。クラスメイトたちは、それぞれが「〇〇の仕事に就きたい」「〇〇の大学に行きたい」と、現実的な夢を語っていた。そんな中、俺は迷いなく、そしてはっきりと、「Youtuberになる!」**と、ありったけの声量で叫んだ。
その瞬間、クラス中にどっと笑い声が響き渡った。
「えー!マジで!?」「YouTuberって(笑)」「できるわけないだろ!」
そんな声が聞こえてくる。無理もない。当時のYoutuberは、今ほど社会的に認知された職業ではなかった。
むしろ、一部の若者が面白半分でやっている「遊び」のような認識が強かっただろう。
しかし、俺にとっては、これは本気だった。笑われるのは百も承知。それでも、自分の心の中に強く抱いていた夢を、初めて他人に、しかも大勢の前で宣言できたことは、俺にとって大きな意味があった。
それは、夢を現実のものとするための、最初の一歩だと感じていた。俺の「ポジティブ思考」と、「インフレな傾向」が、この時も最大限に発揮されていたのだ。
周囲の嘲笑すら、俺の夢への情熱を燃え上がらせる燃料のように感じられた。
親友Yくんとの別れ、そしてそれぞれの道へ
卒業式の日、俺は多くの友人たちと別れの言葉を交わした。
特に、高校時代を共に過ごし、毎日顔を合わせていたYくんとの別れは、特別なものだった。彼とは、くだらない話から真剣な悩みまで、本当に多くの時間を共有してきた。毎日出会うのが当たり前だった日常が、もうすぐ終わる。
「じゃあな、Y。元気でな。」 「お前もな、TITAN。YouTuber、頑張れよ!」
そんな言葉を交わしたのを覚えている。Yくんは、俺の夢を笑いながらも、どこか応援してくれているような、そんな優しい奴だった。握手を交わし、互いにそれぞれの道へ進むことを誓った。
彼の言葉は、俺の胸に温かく響いた。これからは、これまでのように毎日顔を合わせることはなくなる。それぞれが選んだ未来に向かって、一歩を踏み出す時が来たのだ。
高校時代:黄金期という名の楽園
はっきりと言えば、これまでの18年間の中で、高校時代が一番楽しかった生活だったと断言できる。
それは、その後のメタバース開発を本格的に始めるあの日になるまでも、俺にとっての一番の黄金期だったともいえる。
中学時代までの、どこか息苦しく、周囲に馴染めなかった自分とは対照的に、高校では気の合う仲間に出会い、好きなことに没頭できる時間があった。
鉄道旅行に夢中になり、異世界のような台湾を旅し、Youtuberという夢を追いかけ、そして「理想の家」やプログラミングという形で、自分の創造性を爆発させることができた。
身体を動かす農業コースで基礎的な体力と忍耐力を養いながら、同時に知識労働である事務系の職場実習で社会の現実にも触れた。
多種多様な経験を積み、俺の中の「男子版」「女子版」「ハイエンド」…いやハイエンドはまだ生まれてないか…といった異なる価値観が、この高校時代に確立されていったのだ。
何よりも、まだ「時間」がたっぷりあった。社会に出てから実感する、時間の貴重さ、そのかけがえのない「時間」が、高校時代には無限にあるように思えた。
だからこそ、不便な青春18きっぷの旅も楽しめたし、Youtuberになるという無謀な夢を追いかける余裕もあった。
親の期待と自分の夢との間に挟まれ、どこか後ろめたい気持ちはあったものの、それでも全体的には、希望に満ちた、輝かしい日々だった。
あの頃の俺は、未来が無限に広がっていると信じていた。そして、社会に出れば、もっと面白いことが待っているに違いないと、漠然とだが期待していた。
卒業、そして次のステージへ:春の足音
こうして、長いようで短いこの3年の高校生活が終わり、俺はいよいよ社会人になる……いや、そう簡単にはいかない。まだ、次回の第20話があるんだ、これが。
なんでやねんーとおもうだけども
第20話では、卒業式を終えてから、社会人になるまでの春休みの間のこと、そしてその期間が俺の人生における重要な転換期となることを、少し短いものになるかもしれないが、深く掘り下げて語ろうと思う。
この期間に起こった出来事や、俺の心境の変化は、その後の俺の人生、特にメタバース開発へと繋がる、すごく大事な内容だ。
高校時代の黄金期から、社会人へと足を踏み入れるまでの、静かなる変化。それは、希望と不安が入り混じった、新たな物語の序章となるだろう。
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