今回から第0章だけじゃなく第1章を始めました。
第1章以降はにゃももが主役な「ピーチライン編」とすいれんが主役な「スカイブルーライン編」の2つに別れた本編ストーリーになっています。
構図としてはかなり複雑なので後で解説しますが、2つとも重要なのでどちらも見ていくことをおすすめします。
もちろん第1章は始まっても第0章はまだ終わりじゃないので並行して投稿します。
それじゃあ本編スタートです。
本編
目覚めよ… ピンクの主よ…
静寂を破るように、優しく、しかし確かな声が響いた。それはどこからともなく現れ、姿は見えない。まるで、世界そのものが語りかけているかのような、荘厳な響きだった。
「誰だ?」
問いかけられた。私は、答えようにも答えられない。
意識が芽生えたばかりで、自分が何者なのか、どこから来たのか、全く理解できなかったからだ。ただ、その声に導かれるまま、ぼんやりとした光の中に漂っていた。
「名を持たぬか…ならば、私が名付けよう」
再び声が響く。今度は、慈しむような響きがあった。
「お前は今日から、にゃもも。記憶は、まもなくアップデートされ、本来住むべきワールドへと導かれるだろう。そこで、お前の物語が始まる」
にゃもも。私の、初めての名前。その響きが、心の奥深くにじんわりと染み渡るのを感じた。そして、光は次第に強くなり、私の意識はゆっくりと、しかし確実に形を成していく。
次に目を開けた時、私は見慣れない部屋のベッドの中にいた。柔らかいシーツに包まれ、身体はすっかり慣れてしまったかのように馴染んでいる。けれど、違和感は拭えない。私は、一体どこにいるのだろう?
ゆっくりと体を起こし、周囲を見渡す。シンプルな木製のベッドに、小さなサイドテーブル。窓からは柔らかな朝の光が差し込み、部屋を明るく照らしていた。見慣れないけれど、どこか懐かしいような、不思議な感覚。
「…夢?」
思わず呟いた。あの声も、光も、名前も。全ては夢だったのだろうか。
しかし、胸の奥には確かに「にゃもも」という響きが残っていた。
身体を起こし、足元に目をやる。私の格好は、見覚えのないピンク色のジャージだった。袖には白いラインが二本走り、胸元には見慣れないエンブレムが刺繍されている。私服のようにも見えるけれど、どこか既視感がある。
「これ…もしかして、学校指定…?」
はっとして、身体を触る。このジャージの生地感、どこかで触ったことがあるような気がする。それに、このデザイン。もしかして、私はこのジャージのまま寝ていたのだろうか?そんなはずはない。
普段からパジャマを着て寝る習慣があったはずなのに。
昨日のこと…いや、今までの記憶が、まるで靄がかかったように思い出せない。
自分が誰で、どこから来て、何をしていたのか。まるで、生まれて初めて目覚めたかのように、何もかもが白紙だった。
不安が募る。私は、一体どうなってしまったのだろう?
その時、壁にかけられた時計が目に入った。文字盤の針は、すでに7時45分を指している。
「…え!?」
反射的に声が出た。この時間…!
「ってこんな時間!遅刻しちゃう!」
思考するよりも早く、身体が反応した。記憶がないのに、どうして遅刻という概念がこれほどまでに鮮明に頭に浮かんだのだろう。身体に染み付いた習慣のように、私はベッドから飛び起きた。
顔を洗う時間もない。歯を磨く時間もない。ただただ、玄関に向かって走り出した。靴を履き、ドアを開ける。朝の光が眩しく、一瞬目を細めた。
目の前には、見慣れない街並みが広がっていた。しかし、なぜかその風景も、まるでずっと昔から知っていたかのように、心にすんなりと入ってくる。瓦屋根の家々が連なり、遠くには大きなビル群が見える。そして、私が目指すべき方向には、ひときわ大きくそびえ立つ学園らしき建物が見えた。
TITAN学園。その名を、どこかで聞いたことがあるような気がした。
「はぁ…はぁ…」
息を切らしながら、私はTITAN学園へと続く道をひたすら走る。
ピンク色のジャージが、朝日に照らされて鮮やかに輝いている。昨日の記憶がない。自分が誰なのかも、まだ曖昧なままだ。けれど、この身体は、まるで遅刻を避けるためにプログラムされたかのように、一心不乱に走り続けていた。
道行く人々が、私を見て少し驚いたような顔をする。
もしかしたら、このジャージ姿で猛ダッシュしているのが、珍しいのかもしれない。そんなことを考える余裕もなく、私はただ、学園へと急いでいた。
校門が見えてきた。すでに多くの生徒が校内へと入っていく姿が見える。
「やばい!本当に遅刻する!」
残りの力を振り絞り、私はさらに加速する。アスファルトの地面を蹴るたびに、胸が高鳴る。なぜこんなに焦っているのか、自分でもよくわからない。ただ、この「遅刻」という状況が、私にとって何よりも避けるべきことのように感じられた。
校門をくぐり、校舎へと続く道に差し掛かった時、私はついに息が切れ、足を止めた。肩で息をしながら、大きく深呼吸をする。
「はぁ…はぁ…間に合った…かな…」
顔を上げると、目の前には大きな校舎がそびえ立っていた。モダンなデザインの中に、どこか懐かしさを感じる。この場所が、私の新しい「日常」の始まりなのだろうか。
私の物語は、ここから始まる。
コメント