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【ピーチライン編第1章第18話】想像する絶望の過去1

夜のリーブパーク。虫の鳴き声だけが響く静寂の中、ごうとは重い口を開き、自らの過去を語り始めた。その話は、にゃももが想像していたものとは、大きくかけ離れていた。

今の暴力的で傲慢なごうとの姿からは想像もつかない、臆病で弱い少年の姿が、彼の言葉の端々から垣間見えたのだ。

「ああ…俺の母ちゃんはな…」

ごうとの言葉は、幼稚園の頃まで遡る。


目次

初代の親との温かい日々

「俺の親は、実は俺が幼稚園の時に交通事故で亡くなったんだ」

ごうとの口から放たれた衝撃の事実に、にゃももは息を呑んだ。まさか、そんな悲しい過去を抱えているとは。

「当時の親は、想像もつかないほど、とても優しくて、俺を可愛がってくれていた

ごうとの声は、その時の記憶を辿るように、少しだけ穏やかになった。彼の言葉から、にゃももは、温かい家庭の風景を想像した。ごうとの幼い頃は、愛情に満ちた日々だったのだろう。

「俺は、親の前ではいい子でいたんだ」

ごうとは、小さく呟いた。彼の言葉の裏には、親の愛情に応えたいという、幼い子供なりの必死な思いが込められていた。

「頑張れば、そりゃあご褒美があった。新しいおもちゃも買ってくれたし、美味しいものも食べさせてくれた。だから、俺は頑張れたんだ」

ごうとの声には、その時の純粋な喜びが滲んでいた。勉強でも、手伝いでも、どんなことでも、親に褒められたい、親を喜ばせたい、その一心で頑張っていたのだろう。

「勉強とかも、ちゃんとやっていたんだぜ。昔の俺は、今の俺とは全然違う。暴力沙汰なんぞ、俺には全くなかった」

ごうとは、自嘲するように笑った。今の彼からは信じられないが、彼の言葉には嘘偽りがなかった。にゃももは、ごうとの過去の言葉を真剣に聞いていた。彼の「暴力的」な姿は、後天的に形成されたものなのだ。

「友達とも、馴染んで遊んでいた。公園で鬼ごっこしたり、秘密基地作ったり。毎日が楽しくて、何の悩みもなかったんだ…」

ごうとの瞳には、遠い過去の、無邪気な子供の姿が映っているようだった。その頃の彼は、まさか、数年後に自分が「大軍スズメバチ」と呼ばれるような存在になるとは、夢にも思わなかっただろう。


突然の悲劇

しかし、その穏やかな日々は、突然終わりを告げる。ごうとが6歳になった時、彼の人生を変える、決定的な出来事が起きたのだ。

「けど…俺が6歳の時、親は…交差点の車の追突事故で亡くなってしまう

ごうとの声が震えた。その時の記憶が、鮮明に蘇るのだろう。にゃももは、何も言葉が出なかった。ただ、静かにごうとの話を聞くことしかできない。

「追突の原因は、トラックの車が故障を起こして、操作が利かなくなったことだったらしい。だから、避けようがなかった…」

ごうとの声は、痛みを伴うように響いた。それは、不可抗力な事故だった。だからこそ、理不尽さがより一層、彼の心を蝕んだに違いない。

「もちろん、俺の親は被害側だ。トラックの持ち主に対しては、厳しく責任を持たされた。賠償金も支払われたと聞いている…」

経済的な補償はあったのだろう。しかし、ごうとにとって、何よりも大切なものを失った代償にはなり得なかった。

「けど…俺は、その時、もう一人ぼっちになり…これまで愛想を尽くすほど可愛がってくれた親は、もうどこにもいないんだ…」

ごうとの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。幼い頃の彼は、その事実をどう受け止めたのだろう。最愛の存在を突然失い、たった一人残された絶望感。にゃももの胸が締め付けられる。

「これからどうすればいいんだって…毎日が暗い日々だった…」

ごうとの言葉は、当時の彼の心境をありありと物語っていた。幼い子供が、突然放り出されたような孤独。未来が見えず、ただ闇雲に不安に怯える日々。

「もちろん、年齢もあってか、俺はすぐに保護された。親戚の家だったり、児童養護施設だったり…いくつかの場所を転々とした…」

彼の言葉には、その後の過酷な日々が凝縮されているようだった。親を失った幼い子供が、慣れない環境に身を置き、次々と場所を変えさせられる苦しみ。

ごうとは、そこで一度言葉を切った。大きく息を吸い込み、吐き出す。彼の話は、まだ序章に過ぎない。これから語られるのは、彼の人生を決定づけた、さらに想像を絶する現実なのだろう。

にゃももは、ごうとの隣で静かに座り続けていた。彼が話すのを邪魔しないように、ただ耳を傾けていた。ごうとの抱える過去の重さに、にゃももの心は深く揺さぶられていた。

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