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【ピーチライン編第1章第22話】真の盗み

夜の帳が下りた農業部の畑で、にゃももとごうとの目の前に現れたのは、まさかのごうとの母親だった。

彼女は、にゃももが「新生徒会長」であることを知っている教師だと名乗り、ごうとは彼女が偽りの母親であること、そして学園の教師に化けていたことを告白した。その衝撃的な事実に、にゃももはただ言葉を失っていた。

ごうとの母親は、にゃももの視線に怯えるように顔を歪めた。にゃももは、ごうとの過去の告白を思い出し、彼女の行動の真意を探ろうとした。

「ごうとくんのお母さん…どうして、こんなことを?」

にゃももが問いかけると、ごうとの母親は顔をそむけるように答えた。

「これは…NFTとして売るためよ…!」

彼女の言葉に、にゃももは再び衝撃を受けた。ただの食料品として盗んでいたわけではない。このメタバース世界で得た農作物を、NFTとして転売するつもりだったというのだ。

にゃももは、このTITAN園、いや、WEB3.0の世界の特性を思い出した。

この世界では、資源が無限に湧いてくる。そのため、お金がどんどん増え、モノもどんどん増える。

結果として、流動性が非常に大きいのだ。

この学園における農作物は、ここに利用する生徒や教師、そして外部の利用者からもかなり有名だった。

リアル再現性が非常に高く、農業の教育現場や、自宅での家庭菜園の再現にも使用されているほどだ。

しかし、タイタン校長は、これらの農作物をNFTとして売ることに価値を見出していなかった。

むしろ、生徒たちに現場での検証や体験として使ってほしいという思いから、校則で収穫した農作物をレストラン街などで利用することを除き、転売することを禁止にしていたのだ。

(ただの農作物の盗みかと思ったら、まさかNFT転売に使われるなんて…!)

にゃももは、怒りに震えた。これは、単なる窃盗ではない。

学園の理念を大きく逸脱し、システムの悪用を試みる行為だ。にゃももの中で、ある決断が固まった。生徒会長として、この事態を看過することはできない。

その時、ごうとが、にゃももの後ろから母親に向かって叫んだ。彼の声には、これまで抑えつけられていた感情が爆発したかのような、強い怒りがこもっていた。

「ふん!もうお前なんか、俺の母ちゃんなんかじゃねぇ!

ごうとの言葉に、彼の母親は衝撃を受けたように目を見開いた。彼女の顔からは、血の気が引いていく。

「小さい頃から、ただの泥棒猫のような奴隷としてこき使うやつは、子育ての仕方が最低中最低だ!

ごうとの言葉は、これまでの恨み辛みを全て吐き出すかのようだった。

彼の母親は、マキノという名前であることが、にゃももの頭の中でぼんやりと認識された。マキノは、まさか息子からここまで言われるとは思っていなかったのだろう。その顔は絶望に染まっている。

そして、ごうとはにゃももの方へ振り返り、真っ直ぐに彼女を見つめて言った。

「この今、本当の母ちゃんというのは…このピンク髪の、にゃももお姉だ!

ごうとの衝撃的な告白に、にゃももは思わず絶叫した。

「ちょっ!なに馬鹿なこと言っているのよ!だれがママだ!

顔を真っ赤にして否定するにゃもも。しかし、ごうとの言葉は止まらない。

「いや!俺は今ここで告白をする!にゃももは、俺様の違和感を相談に耳を傾け、そして血迷いの俺を導きさせてくれたんだ!だから俺を弟子にしてくれ!ママ!

ごうとは、にゃももの足元にひざまずき、まるで崇拝するかのように懇願した。

「ちょー!やめてー!!」

にゃももは、全身で拒否反応を示した。生徒会長として、生徒の悩みに寄り添うのは当然だが、まさか母親と慕われるとは。しかも、目の前には実の母親がいるのだ。

マキノは、息子にごうとを奪われただけでなく、にゃももに「下剋上」されたことに、がっくりと肩を落とした。彼女の目には、絶望と、そしてわずかな悔しさが浮かんでいた。

その時、畑の奥から、聞き慣れた声が聞こえてきた。

「おうおう、これはこれは、さっそくモテたじゃん、生徒会長!」

「あれはモテたというより、推しだと思いますが…」

にゃももが声のする方を向くと、そこに立っていたのは、タイタン校長と、くろとだった。

「校長先生!?そしてくろとさん、一体なぜ!?」

にゃももは驚いて尋ねた。なぜこんな夜中に、二人がここにいるのか。

「なーんか校門の扉が開いたのをセンサーが反応したから、様子を見たらこのざまだ」

タイタンは、飄々とした口調で答えた。しかし、その目は、ごうとの母親であるマキノをしっかりと捉えている。

くろとは、冷静な表情でマキノに向かって言った。

マキノ先生…いや、ごうとのお母様。あなたが窃盗していたのは、すでに存じており、証拠も出しています

くろとの言葉に、マキノは「ななな!?」と顔を青ざめさせた。彼女の顔からは、全ての血の気が引いていく。すでに学園側は、彼女の犯行を把握していたのだ。

「というわけですまないが、今ある畑のモノをブロックチェーン技術を応用して犯罪調査をした上で、洗い出してもらったぜ」

タイタンは、悠然と告げた。ブロックチェーン技術。それは、このWEB3.0の世界における、改ざん不可能な記録技術だ。一度記録された情報は、決して消すことができない。つまり、マキノの犯行の証拠は、既に完全に抑えられているということだ。

マキノは、タイタンの言葉を聞くなり、絶望的な表情を浮かべた。もう、逃げ場はない。彼女は、一言も発さずに、その場でログアウトして逃走した。

「あ!?逃げられました!」

くろとが、慌てたように声を上げた。しかし、タイタンは全く動じていない。

「大丈夫だ、これも時間の問題だろう」

タイタンは、どこか余裕のある表情でそう言った。ログアウトしたとしても、このWEB3.0の世界では、個人のアカウント情報は全て記録されている。逃げたところで、いずれは足がつくということだろう。

にゃももは、タイタンとくろとの様子を見て、一つの疑問が湧き上がった。

「あの、校長先生、くろとさん…もしかして…!?」

彼らは、最初からマキノの犯行を知っていたのではないか。そして、にゃももにごうとを追わせたのも、全て計画通りだったのではないか、と。

タイタンは、にゃももの視線を受け止めて、ニヤリと笑った。

「まあなんとなく、だけどな。ある程度は目星をつけていたんだよ」

タイタンの言葉に、にゃももは呆れと、そして少しばかりの憤りを感じた。全ては、彼の掌の上だったということだ。しかし、この事件を通して、ごうとの過去が明らかになり、そして彼との間に、確かな絆が生まれたことも事実だ。

ごうとは、母親が消えた後も、にゃももの足元にひざまずいたままだった。彼の瞳には、まだ涙が浮かんでいる。

「ママ…」

ごうとの呼び声に、にゃももはため息をついた。

(生徒会長になったと思ったら、いきなり「ママ」って呼ばれるなんて…この学園、本当に何でもありだわ…!)

にゃももは、この学園での自分の役割が、ただの生徒会長にとどまらないことを、改めて痛感していた。

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