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【ピーチライン編第1章第25話】小嵐後の明けさ

TITAN学園での波乱に満ちた2日間から、あっという間に1か月が経過した。

にゃももは、この学園での生活にすっかりと慣れてきていた。

個性豊かな生徒たちに最初は戸惑ったものの、彼らが根は皆、友達思いであることを知るにつれ、にゃもも自身も学園に深く馴染んでいった。

生徒会での仕事も順調に進んでいた。

にゃももは生徒会長として、持ち前の明るさと行動力で、学園内の様々な問題解決に尽力した。授業も順調にこなしており、新しい知識を吸収することに喜びを感じていた。

(この辺りについては、また別の機会、『スカイブルーライン編』などで詳しく触れられることだろう)

そしてこの第25話では、この1か月で起こった重要な出来事について語られる。


目次

学園システムの改善とごうとの変化

にゃももが生徒会長として活動を始めてまず取り組んだのは、学園システムの改善だった。ごうととの一件で明らかになった、いくつかの問題点が彼女の頭にはっきりと残っていたからだ。

「この学園のシステムは、ワールドそのものというより、メタバースエンジンそのものの問題が大きいな…」

にゃももは、そう結論付けた。具体的に気になったのは、以下の点だ。

  • アカウントによるセキュリティの甘さ: マキノが学園教師に化け、ごうとが小学生でありながら入学できたことなど、アカウント認証や身分証明の仕組みに脆弱性がある。
  • 信用問題(キャラクターの人脈・人格): メタバース内での自由なキャラ設定が、現実の人間関係や信用に直結しないため、詐欺や悪質な行為に繋がりやすい。
  • モノを奪えてしまう問題: NFTカードや農作物など、他者の所有物を簡単に盗むことができてしまう現状。これは、ユーザー間の信頼関係を損ねる。
  • 年齢問題: 現実の年齢とメタバースでの年齢設定の乖離が、今回の事件のような複雑な問題を引き起こす。

これらの問題は、単に個々の生徒の問題として片付けられるものではない。メタバースの根本的な設計に関わる問題であり、学園の基盤を揺るがしかねないものだとにゃももは判断した。そこで彼女は後日、エンジニア部署にこれらの問題の修正を依頼した。エンジニアチームも、生徒会長からの具体的な指摘を受けて、改善に向けて動き出した。


その後、ごうとについては、行政と学園の協力のもと、現実世界で保護施設に保護された。彼が抱えていた過去のトラウマや、歪んだ価値観の刷り込みは根深く、すぐに解決できるものではない。しかし、精神的なケアを受けられる環境に身を置くことで、ごうとは少しずつではあるが、心の回復に向かっていた。

ごうとは今もTITAN学園に在学している。彼はにゃももの言葉に導かれるように、これまで彼が暴力行為を行った生徒たち一人一人に、誠心誠意謝罪して回った。彼の真摯な謝罪に、最初は戸惑っていた生徒たちも、次第に彼の変化を受け入れ始めていた。

学園側も、ごうとの変化を受け、今後のシステムアップデートで、暴力的な問題への対策を強化することにした。仲間に対する暴力や暴言、盗難行為については、厳しい規制をかける仕組みが導入される予定だ。

「ただ、全部が暴力を駄目かといえばそうじゃなく…」

タイタン校長は、にゃももにそう説明した。次のアップデートで追加されるファンタジー要素では、戦闘要素が含まれるため、暴力を完全に禁止にすることはできないという。

また、仲間を守るために必要な暴力もあるため、一概に悪とは決めつけられない、というタイタン校長らしい思想がそこにはあった。

ごうとの診断結果

そして、ごうとの病院での結果は、にゃももの予想通り、やはりADHDであることが診断された。特に衝動的な行動が強く出るタイプであることから、それを改善するためのカウンセリングと治療が始まった。

タイタンは、ADHDとメタバースの相性が良いという研究結果があることにも触れたが、にゃももはそれを鵜呑みにしなかった。

「けど、その理由だけで自分は考慮しないわ。なにせITの世界というのは難しいから、全員が見ても理解できるような仕組みの方が良いということは、どんなエンジニアも言うことだからね」

にゃももは、今後の開発において、統一された分かりやすい表現で説明できる設計を求めた。

誰にとっても理解しやすく、利用しやすいシステムこそが、真の意味で「自由」を享受できる環境だと考えたのだ。


マキノの結末とタイタンの思惑

一方で、今回の畑盗難の犯人であるマキノ先生についてだが、彼女は学園をクビになった。

そして、彼女のアカウント情報も、ブロックチェーンごと焼却(データ削除)された。これにより、TITAN園における彼女の存在は完全に抹消されたことになる。しかし、肝心の現実の肉体は逃げられてしまい、逮捕には至らなかった。彼女がどこへ行ったのかは、今のところ不明だ。


校長との会話

そして現在。屋上で、にゃももはタイタン校長と二人きりだった。他の生徒会メンバーたちは、まだそれぞれの仕事や部活に取り組んでいるようだ。

「お疲れ様、にゃもも殿。こうやって二人きりになるのは、なんだかんだ初めてかもな」

タイタンは、深く身を沈めながら言った。

「そうですね…他の生徒会の人たちはまだ仕事しているし、暇なのは私たち、っていいのかな?会長と校長の私たちがサボって」

にゃももが冗談めかして言うと、タイタンはフッと笑った。

「別にいいんじゃないか…というか、これも俺らの重要な仕事だ」

タイタンの言葉に、にゃももは首を傾げた。

「経営者や管理者が適度に休まないと、部下はきつくなるからな。俺たちが休むという重要性を知っておかなければ、働き方というのは変わらない」

タイタンは、どこか遠い目をして語った。彼の言葉には、単なる学園の運営だけでなく、もっと大きな社会の仕組みを変えたいという、壮大な思想が込められているように感じられた。

にゃももは、その言葉に興味を抱き、タイタンに核心を突く質問をした。

「あのー、思ったんですけど、なぜ世の中を変えたいと思っているのですか?たいちゃん

にゃももの口から出た、突然の「たいちゃん」という呼び名に、タイタンは目を見開いて、おどおどと落ち着かない様子になった。

「おいおい…生徒会長のこんな呼び名を言われるとな…」

タイタンは顔を赤らめ、視線をそらした。にゃももは、その反応を見てニヤリと笑った。

「へへん!これ、校長のあまりの振り回しに、私からのお返しプレゼントです!」

にゃももは、してやったり、といった表情で胸を張った。これは、入学以来、タイタンに振り回され続けたことへの、ささやかな反撃だった。そして同時に、初めて自分自身の意思で、彼に対して「個」を打ち出せたことに、密かな喜びを感じていた。

(やった!これで初めて自分から打ち出せた!これが『自由』か!)

心の中でそう呟く。

「まあ、すいれんちゃんに『ちゃん』づけすると固くなるよーって教えてもらったんだけどね」

にゃももが、すいれんから得た情報を披露すると、タイタンはさらに顔を歪めた。

「あいつめー!あとで覚えてろ!」

タイタンは、すいれんへの恨み節を吐き出しつつも、すぐに真剣な表情に戻った。

「ともかく、俺は今の世の中を変えたいと思っているのは、上下関係、支配、独占、中央集権という独裁者思考というのがとにかく嫌いだからだ。事実、私も校長という肩書きが荷物が重すぎるから、やめたいとさえ思っている」

タイタンの言葉は、彼の根深い思想を示していた。彼は、社会に蔓延る不平等や不自由、そして一部の権力者が全てを支配しようとする現状に、強い憤りを感じているのだ。彼がにゃももに生徒会長という重責を負わせたのも、その思想の一端なのかもしれない。

「たいちゃんは、平和とか平等が望ましいんですか?」

にゃももが尋ねると、タイタンは首を横に振った。

「平等にしたいというより、公正にしたい、ってな」

タイタンの言葉に、にゃももは深く頷いた。

「お前も経験して分かる通り、世の中は絶対に平等にすることはできない。人間には個性があるからな。だが、できる限りのその差を縮めるような役割をするのが、富裕層や権利者の義務ではないと、俺は思う」

タイタンの言葉は、まるで国のリーダーが語る理念のようだった。彼の目には、この学園だけでなく、もっと広大な世界の未来が映っているかのようだ。

「けど、ビジネスというのはお金が命だ。ゲームで言えばHP、つまりゼロになった瞬間、即死だ」

タイタンは、現実的な問題にも目を向けた。どんなに崇高な理想があっても、経済的な基盤がなければ、それは絵空事に過ぎない。

「できないのは、資本主義というそのものの制約があるからだな。その制約を壊すためには…変わるしかない

タイタンの言葉は、決意に満ちていた。彼の目指す「変化」は、このTITAN園というメタバースの世界から、現実世界にまで波及するような、壮大なものなのかもしれない。

にゃももは、その言葉の重みに、深く考え込んでいた。彼女の「自分探し」の旅は、いつの間にか、この世界の未来を左右する大きなうねりの中に巻き込まれていたのだ。

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