「それで、今日の生徒会をやってみて、二つ気になったことがあるの?」
にゃももは、切り出すようにタイタンに尋ねた。ごうとの件を通して、タイタンの持つ「公正さ」の概念と、今後の学園の方向性について、さらに深く知りたいという思いがあった。
「なんだ?」
タイタンは、いつものように飄々とした態度で答えた。
「まず、たいちゃんって、暴力のことどう思う?」
にゃももは、タイタンがごうとの件で「全部が駄目じゃない」と言っていた言葉を引用した。
「ほら、全部が駄目じゃないとは言っていたけど、公正さを考えるたいちゃんらしくないなぁって」
にゃももの率直な問いかけに、タイタンは少し考えるように視線を宙に彷徨わせた。
「暴力についてだが、これは道徳心的に考えれば、基本はNGだと思う」
タイタンの言葉は、一般的な倫理観に沿ったものだった。しかし、彼はすぐにその言葉に条件を付け加えた。
「だが、これは害のないやつを攻撃するだけの話だ。だが、害のあるやつだったらどうする?」
タイタンの問いかけに、にゃももは言葉に詰まった。確かに、害をなす相手に対して、どう対応すべきか。その問いは、簡単には答えが出ない。
暴力の哲学:逃げるか、倒すか
「それは…」
にゃももは、二つの選択肢を頭の中で思い描いた。一つは、危険から身を守るために逃げること。もう一つは、害を排除するために倒すこと。
もしにゃももが「逃げる」を選択した場合:
タイタンはフッと鼻で笑った。
「まあ普通の人の考え方だな。だが、その逃げた先に、さらに追い詰められる可能性もある。そして、逃げたことで、守るべきものを失うこともある」
タイタンの言葉は、にゃももが想像していた「普通」の道に、新たな視点を与えた。逃げることが、常に最善の選択とは限らない。
もしにゃももが「倒す」を選択した場合:
タイタンは、にこやかに、しかしどこか不敵な笑みを浮かべた。
「おうおう、意外と物騒だな、お前さんは」
「たいちゃんには言われたくない…」
にゃももは、思わずタイタンにツッコミを入れた。彼の言葉は、にゃももが心の中に秘めていた、強い部分を見抜いているようだった。
(分岐終了)
タイタンは、にゃももの選択に関わらず、自身の哲学を続けた。
「基本的に、害があるやつは自分の幸福を絶対に奪おうとする。これまで動画で見ても、人生観で見ても、奪われたやつが幸福になったのは見たこともない。少なくとも、精神面はすり減るからな」
タイタンの言葉は、ごうとの過去を彷彿とさせた。彼の母親は、ごうとから全てを奪おうとし、彼の精神をすり減らしていった。その結果、ごうとは心を閉ざし、暴力的になったのだ。
「だから…」
タイタンは、にゃももの目を真っ直ぐに見つめ、力強く言い放った。
「守りたいやつは全力で守れ。死に物狂いでな」
その言葉は、まるでタイタン自身の人生訓のようだった。そして、ごうとに伝えた言葉と全く同じだ。にゃももは、その言葉の重みに、ただ静かに耳を傾けていた。彼女の心の中で、生徒会長としての、そして自分自身の「軸」が、確固たるものになっていくのを感じた。
「…」
にゃももは、何も言わず、タイタンの言葉を心に刻んだ。
「んで、暴力については以上だ。なんかもう一つ聞きたいことがあるよな?」
タイタンは、にゃももの心を見透かしたかのように言った。
「そうでした!」
にゃももは、はっとしたように顔を上げた。
次のアップデートと世界の格差
「次のファンタジーアップデートについてなんですが、何か大きく重要なことなんですか?」
にゃももは、今後の学園の方向性に関わる重要な質問をぶつけた。
「ああ、これは次の集会(原則全員参加必須)でも語るほど重要なことだ」
タイタンは真剣な表情になった。彼がそこまで言うのだから、よほど大きな変更なのだろう。
「先に結論から言えば、ファンタジーアップデートは格差の始まりだろう」
タイタンの言葉に、にゃももは再び驚きを隠せない。
「格差の始まり?はあ?なにそれ?」
にゃももは、思わず声を荒らげた。格差は、タイタンが最も嫌っているはずの概念だ。それが、彼自身が関わるアップデートで生まれるというのか。
「この学園…この園の世界に限らず、WEBの世界は平和すぎる。この学園も、こうした平和なコミュニティ的なものが多く、好きな人と関わるだけで、嫌いな人との関わりはあまりない」
タイタンは、屋上から広がる学園を見下ろしながら語った。
「だが、好きだけでは、あるリスクがある」
「それは、敵がいないことだ」
タイタンの言葉に、にゃももは思わず目を見開いた。敵がいないことがリスク?
「実は、人というのは残酷な話で、何かと敵を作ろうとするんだ、自然に」
タイタンは、人間の本質を語るように言った。今回のマキノやごうとの事件も、その延長線上にあるというのだろうか。
「今回の事件があったように、いくら平和を目指そうとしても、必ず荒らしという敵が現れる」
タイタンは、ごうとの母親であるマキノの件を例に挙げた。
「だけど、これは刺激の足りなさによるものだと私は思う」
にゃももは、内心で(今でもこの学園のクセで刺激がすごすぎるんですけど…)とツッコミを入れた。これ以上刺激が増えるとなると、一体どうなるのだろうか。
「平和すぎると…実は国家というのは崩壊する運命なのだよ」
タイタンの言葉は、学園の枠を超え、まるで世界の真理を語るかのように響いた。彼の壮大な思想が、にゃももに伝わってくる。
「私は常にこの学園にいる生徒や、園に所属する住人により良い生活を提供し続けてきた。けど、メタバースにおいて求められているのは、リアル世界の価値観とは全く違う、異世界に過ごしたいとの欲求だろう」
にゃももは、タイタンの言葉に納得した。
「確かに、この学園はいくら個性的といっても、リアルにあるあるな学園であることには変わりないですもんね…」
どんなに自由で革新的でも、学校という枠組みの中で、現実世界の模倣から完全に脱却できていない部分があるのは事実だ。
「だから、根っから違うものに挑戦をしたいと思ってな」
タイタンの目には、新たな未来への強い光が宿っていた。
「ああ、もちろん、戦うのが嫌いな生徒もいるだろう。基本的にこの学園や、このあたりは禁止にするので、ここは安心してほしい」
タイタンは、戦いを望まない生徒への配慮も忘れていなかった。学園の既存の平和な要素は、これからも継続されていくのだろう。
「これまでどおりの学園に気づいたこの要素は継続していくから」
「ちょっと哲学的なものから先に話しちゃったけど、基本的にはファンタジーアップデートは多くの人にとってはワクワクのある内容であることは確かだ」
タイタンは、にゃももに笑顔を向けた。
「これまでは職業スキルだけというのが強みだったが、今後は戦闘スキルも加わる」
タイタンの言葉を聞いた途端、にゃももの体に異変が起こった。
「ななな…急に体が重くなったぞ…」
にゃももは、まるで急に重力が増したかのように、身体がずっしりと沈むのを感じた。
「これは戦闘スキルによるレベルパラメーターを反映したものだ。つまり、これから体力がより重要になってくる」
タイタンは、にゃももの変化を見て、面白そうに笑った。
「ふぅ…急に四十肩になったような気分だったよ…」
にゃももは、肩を回しながら呟いた。
「おいおい俺より若いのによせよ…」
タイタンは、自分の年齢に触れられて少しバツが悪そうだ。
「うへへ~動いただけで痛いよ!」
にゃももは、冗談めかして言った。
「どこぞのスマホアプリのおじさん少女キャラかい!」
タイタンは、にゃももの言葉にさらにツッコミを入れた。
「まあともあれ、リアル主義の職業か、アンリアル主義の戦闘か。どちらを目指すか、あるいは両方を目指すもよし。実装については…おそらくだけど、このストーリーだと第1.5章ぐらいになるんじゃないかな?」
タイタンの言葉に、にゃももは思わず叫んだ。
「もうすぐじゃないですか!?だって今って最終回ですよね!?」
にゃももは、自分が今、物語の「最終話」にいると認識していた。まさか、そのすぐ後に新たな章が控えているとは。
「学校の屋上はアニメでの定番な最終話だからな、最終話にふさわしいから俺とお前で二人きりの時間がないかなって」
タイタンは、まるで台本を読んでいるかのように言った。
「いや意味わかんないし!というかさっきからメタ臭くないですか?」
にゃももは、タイタンのメタ発言に呆れて言った。
「さっきにメタ発言をしたのはこっちだよな?」
タイタンは、ニヤリと笑ってにゃももの言葉を引用した。にゃももは、自分の発言がブーメランのように返ってきたことに気づき、顔を赤らめた。
「ああ…!?って1.5章って言ったのが事の始まりじゃん!」
にゃももが反論しようとした、その時だった。屋上の扉が勢いよく開いた。
「ああ!いたいたおじさん!ずっとくろとが探していたよ!」
元気いっぱいの声とともに、すいれんが姿を現した。
「すいれんじゃないか?くろとがなんだって?」
タイタンが尋ねると、すいれんは真顔で伝言を伝えた。
「えーと、伝言で『いつまで昼休憩して油を売っているの?早もどれ、雑巾絞りをするぞ、おい』だそうよ」
くろとの恐ろしい伝言に、タイタンは青ざめた。
「うげ!まじで言っていたのかよ!俺なんか忘れていた!」
タイタンは慌てて立ち上がった。
「すいにはよくわかんねぇけど、価値観アップデート?というものに関する話みたいだよー」
すいれんは、首を傾げながら、くろとが言っていたであろう言葉を伝えた。
「そうだ!しまった!実装日を他の生徒会メンバーと先生に告知するんだった!」
タイタンは、慌てて屋上から駆け出していった。その姿は、まるで子供のように慌ただしい。
タイタンが去っていくと、すいれんがにゃももに近づいてきた。
「ねぇねぇー、ちょっと屋上で声を掛ける前から聞いちゃったんだけど…」
すいれんは、にゃももの顔をじっと見つめ、思わぬ質問を投げかけた。
「にゃももお姉ちゃんって、おじさんのこと好き?」
「!?!?」
にゃももは、心臓が飛び出しそうなくらい驚いた。顔が真っ赤になる。
「そんなことないじゃないですか!?」
にゃももは、必死に否定した。しかし、すいれんはにこやかに笑い、さらに追い打ちをかける。
「安心しな、すいはおじさんの事実上の娘でも、実際にはすいとおじさんは血が繋がっているわけじゃないし、いかに家族を持ってそうなおじさんだって、リアルでは独身なんだよ?」
すいれんの言葉に、にゃももはさらに混乱した。独身?この学園の校長で、まるで一家の大黒柱のように振る舞っているのに?
「狙うなら今だよ?おじさんが語る『守りたいやつは全力で守れ!』は、もうすぐそこにいると思うよ!」
すいれんは、タイタンの言葉を引用しながら、にゃももを焚きつけた。
「ちょっと!すいれんちゃん!そんなんじゃないから!」
にゃももは、もう何をどう否定すればいいのか分からなかった。
「まあ、おじさんがあのボッチ好みの性格だから、にゃももお姉ちゃんに惚れるかどうか分かんねぇけど、少なくとも背中を支えていく前提でみたいだしなー」
すいれんは、にゃももに意味深な言葉を残し、くるりと振り返った。
「じゃあ頑張ってね~!すいは授業で恋バナごっこ選手権があるから失礼するぞ~!」
すいれんはそう言い残すと、元気よく屋上から駆け去っていった。
「ちょっ!すいれんちゃん待ちなさい!」
にゃももの叫び声が、屋上に虚しく響いた。
こうして、にゃもものTITAN学園での波乱に満ちた第1章は、幕を閉じた。
タイタン校長から課せられた生徒会長という重責、そして彼が語る世界の「格差」と「変化」。さらに、ごうとの過去と、その母親の真実。そして、謎の組織の存在。
多くの謎と問題が残されたまま、物語は新たな局面へと進む。
次回から第2章に入るが…その前に間章として第1.5章を少しだけ入れていこうと思う。第2章はスカイブルーライン編第1章とピーチライン編第1.5章が終わり次第、再開する。
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