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【ピーチライン編第1章第6話】学校全部が非常識

「じゃあ、にゃももお姉ちゃん、どこから見て回るー?」

校長室を出てすぐ、すいれんは元気いっぱいに尋ねてきた。タイタン校長の命令で道案内役を押し付けられたにも関わらず、どこか楽しそうだ。にゃももは、まだ生徒会長任命の衝撃から立ち直れていなかったが、とりあえずこの不思議な学園を見て回るしかない、と諦めにも似た気持ちで頷いた。

「えっと…じゃあ、この辺りからでいいかな…」

にゃももは、とりあえず目に付いた廊下の先を指差した。すいれんは「はーい!」と元気よく返事をして、にゃももの手を引いた。その小さな手から伝わる温かさに、にゃももの心は少しだけ和んだ。

校内を歩き回ると、すぐにブラウニーやくろとの言葉が現実のものであることを思い知らされた。本当に、どこを見渡しても「普通の教室」というものが存在しないのだ。

まず目についたのは、やはりタイタン校長がいた生徒会室だった。ここは校長室も兼ねているらしい。他には、一般的な学校にもある理科室料理室、そして広大な図書室なども見受けられた。これらはまだ理解できる範囲だ。

しかし、足を進めるにつれて、にゃももの目には信じられないような部屋が次々と飛び込んできた。

「わぁ…あれって…ゲームルーム!?」

扉の向こうに見えたのは、最新のゲーミングPCが何台も並び、大画面モニターが壁一面に設置された空間だった。生徒たちがヘッドセットをつけ、真剣な表情でゲームに没頭している。にゃももが知っている「学校」の常識では、ゲームは放課後や休日に家でやるものだ。それが授業の一環として、しかもこれほど本格的な環境で提供されていることに、にゃももはただただ驚くばかりだった。

さらに進むと、壁一面に鮮やかなイラストが飾られたイラスト室があった。中には、デジタルタブレットを駆使してイラストを描いている生徒や、キャンバスに向かって絵筆を走らせている生徒もいる。そしてその隣には、見たこともない複雑なソフトウェアが起動しているパソコンが並ぶ3DCG室。まるでプロのクリエイターが集まるスタジオのようだ。

「え、あれは…ネイル室!?」

ガラス張りの部屋の中には、ネイルアート用の器具がずらりと並び、生徒たちが互いの爪に色を塗ったり、デコレーションしたりしている。まるで美容専門学校のようだ。にゃももは、自分の知る「学園」という概念が、このTITAN学園においては全く通用しないことを痛感させられた。

そして、極めつけは「推し活室」だった。

「推し活…?」

思わず首を傾げると、すいれんが説明してくれた。

「うん!ここではね、自分の好きなアイドルとかキャラクターとか、なんでも『推し』の活動ができるんだよ!グッズを作ったり、応援動画を作ったり、イベントを企画したりもできるんだ!」

すいれんの説明に、にゃももは目を見開いた。推し活が、学校の授業になるなんて。しかも、ただ楽しむだけでなく、創作や企画まで行えるとは。これはもはや、単なる趣味の範疇を超えている。

学園内には、さらに驚くべき施設があった。暖かな光が差し込む植物園では、珍しい植物が生き生きと育ち、その奥には小さくて可愛らしい動物たちが自由に動き回る小動物室まであった。まるで動物園か植物園に遊びに来たようだ。

「ここね、プールの授業をするところなんだよ!」

すいれんが指差したのは、煌びやかな光に包まれた巨大な施設だった。そこにはウォータースライダーや流れるプール、波のプールまで完備されており、まるで遊園地にあるプールそのものだ。にゃももは目を疑った。こんな施設が、学校の中にあるなんて。リアルの学校ではまず見られないどころか、想像すらできない光景だった。

どの部屋も、単なる「教室」というよりは、それぞれの活動に特化した「コミュニティスペース」といった様相を呈している。生徒たちは、それぞれの興味や関心に合わせて、自由に場所を選び、仲間と交流しながら学んでいるようだった。活気に満ち溢れ、楽しそうな生徒たちの表情は、にゃももが今まで想像していた「勉強」とはかけ離れたものだった。

「すごい…本当に、全部が非常識だ…」

にゃももは、ただただ感嘆の声を漏らした。この学園の自由さと、そのスケールの大きさに、圧倒されるばかりだ。

本校だけでも規格外レベルで広い。まるで一つの街のようだ。しかし、すいれんの話によると、このTITAN学園は、この「本校」だけにとどまらないという。

「TITAN学園の校舎はね、このワールドや場所からかなり分散されてるんだよ。中には、このオープンワールドにない、別のワールドにある校舎もあるんだって!」

すいれんの説明に、にゃももは再び驚愕した。別のワールド?ということは、メタバースの世界に点在しているということだろうか。この「TITAN園」という広大な世界の中で、学園自体が複数の場所に存在しているのだ。

「え、そうなんだ…!じゃあ、すいれんちゃんは、その別のワールドの校舎って、どこにあるか知ってる?」

にゃももは、思わず身を乗り出して尋ねた。この学園の全貌が、知りたくなったのだ。しかし、すいれんは首を傾げた。

「うーん、すいもどこにあるかは流石に知らないなぁ。タイタンおじさんか、くろとさんに聞かないと分からないかも!」

すいれんの返答に、にゃももは少し残念に思ったが、すぐに気を取り直した。この学園の謎は、まだまだ尽きないようだ。

(後で、タイタン校長か、くろとさんに聞いてみよう…)

にゃももは、自分のタブレット端末を手に取り、学園内のマップを呼び出してみた。しかし、表示されるのは現在いる本校のマップのみで、他の校舎の場所は示されていなかった。やはり、これらは特別な情報なのだろう。

にゃももは、この学園の全てが自分の知る常識を覆すものであることを痛感した。しかし、同時に、これほど自由で、何でもありの場所であれば、もしかしたら自分も、失われた記憶を取り戻し、本当に「自分」を見つけることができるのではないか、という期待が芽生え始めていた。

この学園での生活は、きっと驚きと発見に満ちているに違いない。そう確信しながら、にゃももはすいれんと共に、広大な学園の探検を続けた。

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