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【ピーチライン編第1章第8話】ヒロイン気取り!

すいれんに導かれ、TITAN学園の校内をさらに奥へと進んでいたにゃもも。学園の広大さと多様な施設に驚きつつも、どこか自分でもこの環境に慣れてきているような不思議な感覚があった。その時、ふと、前方に人だかりが見えた。何やら騒がしい声が聞こえてくる。

「かえしてよ!せっかくの苦労して手に入れたレアアイテムなのに!」

悲痛な叫び声が聞こえた。どうやら、誰かが困っているらしい。にゃももとすいれんが近づいてみると、中心にいたのは一人の少年と、彼を取り囲む数人の生徒たちだった。少年の手には、キラキラと輝くカードが握られている。

「ふん!この世は奪ったもんがちだ!俺だけじゃなくおとなだってやっているからな!」

その少年は、明らかに相手を挑発するような態度で言い放った。奪われたのはNFTのカード。その言葉に、にゃももは思わず眉をひそめた。

すると、隣にいたすいれんが、何やら冷静に状況を分析し始めた。

「これはこれはまたー、ごうとのやつ派手な行為やっているな。学校あるあるだけど、今日は一段と高いやつを盗んでいるな」

「いや説明している場合じゃないでしょ!どう見てもあれ!友達からモノを盗もうとしているよね!」

にゃももは思わずすいれんの言葉を遮った。まさかこんな状況を冷静に解説するなんて。そんな悠長なことを言っている場合ではない。このままでは、被害に遭っている子が本当にレアアイテムを奪われてしまう。にゃももは、考えるよりも早く、その場へと駆け出した。

「やめなさーい!」

にゃももの声が響き渡る。その声に、カードを奪った少年が振り返った。

「誰だ!俺様に向けて歯向かう相手は!」

少年は鋭い目つきで睨んできた。その瞬間、にゃももは被害者の少年少女に声をかけた。

「大丈夫?さあ、早く逃げて保健室へ!」

にゃももの言葉に、被害に遭っていた「瑠璃(るり)」と呼ばれる少年は、震える声で「うん…」とだけ言い残し、人ごみをかき分けてその場を去っていった。

ごうとは、にゃももの行動を見てニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「ほう…これはこれはまたもやメスガキが表すとは、都合がいい」

「私はこう見えてもあなたより歳上な17歳ですからね!」

にゃももは怒りに震えながら反論した。しかし、横にいるすいれんの視線が、どこか同情的だった。

(あの顔立ちとピンク髪とツインテール、そしてあの身長だと仕方ないような…)

すいれんは、にゃももの見た目からくる印象と、実際の年齢とのギャップに、内心で納得していた。

「17歳…どう暴いても、大人ぶったガキにしか見えないな!しかもジャージというダサい格好じゃん!」

ごうとは、にゃももの言葉を完全に聞き流し、さらに挑発的な言葉を投げかけてくる。にゃももの中で、怒りが頂点に達した。

「強がるのも今のうちですよ!私はこう見えて!生徒会長ですから!」

にゃももは、勢い余ってそう叫んでいた。しかし、その言葉を聞いたすいれんは、首を傾げた。

(あれ?さっきまで生徒会に入らないって言っていた表現、どこ行ったのかな?)

すいれんは、にゃももの豹変ぶりに少し呆れていた。

「ずいぶんとプライドが高い女がいるとは、こりゃあ喧嘩がおもしれぇ!最近は見た目より性格に出やすいって母ちゃんが言っていたからな!」

ごうと、と呼ばれるその少年は、この学園におけるガキ大将と悪名高い小学6年生の問題児だった。別名「大軍スズメバチ」と言われるほど、その乱暴な振る舞いで嫌われている。普通のガキ大将ならまだ友達思いの一面があったり、どこか可愛らしい部分があったりするものだが、彼の場合は他のガキ大将に比べてはるかに厄介だった。その攻撃力は、大人の男性ですら倒してしまうほど強いと言われている。実際に過去に一度、アカウント停止処分を受けて注意喚起されており、今後さらにひどい場合には退学処分が検討されているという、学園でも最大級の問題児なのだ。

にゃももは、ごうとの放つ異様な威圧感に、さすがに身の危険を感じ始めていた。後悔が押し寄せてくる。しかし、今さら逃げるわけにはいかない。

その時、背後から地を這うような低い声が響いた。

「おい!またてめぇ、他の生徒をいじめているな」

その声に、ごうとは明らかに動揺した。

「げ…!その声は…」

ごうとの視線の先に姿を表したのは、身長192cmという大柄な体躯を持つ男だった。いかにも不良といった風貌で、サングラスをかけているため表情は読み取れない。

「あ!ゴールド兄ちゃん!」

すいれんの声が響く。ゴールド兄ちゃん?まさか、このいかにも怖そうな男性が、すいれんの兄弟だというのだろうか。

ゴールドコインは、ごうとの前に立ちはだかった。その巨体は、ごうとを完全に覆い隠してしまうほどだ。

「またか弱い女に暴力沙汰か?おう?」

低い声で脅すように尋ねるゴールドコインに、ごうとは完全に怯えきっていた。

「そ…それは…」

ごうとはしどろもどろになり、次の瞬間には、

「うわーー!」

と悲鳴を上げて逃げ出した。

「こら!待ちやがれ!」

ゴールドコインは逃げ出すごうとを追いかけ、あっという間にその姿は見えなくなった。おそらく、確保して校長室に連行するのだろう。

にゃももは、全身の力が抜けて、その場にへたり込んだ。

「助かった…」

安堵のため息をつくと、背後から優しい声が聞こえた。

「にゃももさん、大丈夫ですか…?」

いつの間にか、くろとがそばに立っていた。彼女の表情には、心からの心配が滲んでいる。

「ええ、おかげさまで…」

にゃももはなんとか笑顔を作った。

「良かった…!無事で」

くろとは心底ホッとしたように、胸を撫で下ろした。

「というか…すいれんちゃん、さっきお兄さんって言ったけど…」

にゃももは、未だ信じられないといった様子ですいれんに尋ねた。

「うん!うちの怖い兄、次男、ゴールドお兄ちゃんだよ」

すいれんはにこやかに答えた。

(ええ…今まですいれんちゃんとブラウニーちゃんが可愛い見た目をしていたのに…男子はその逆なのか…?)

にゃももは、タイタン一家のあまりのギャップに、呆れるばかりだった。可愛い妹たちと、いかにも強面な兄。

少し遅れて、タイタン校長も到着した。

「ああ!いたいた!またごうとのやつ人様に迷惑をかけたか…」

タイタンは、ゴールドコインがごうとを追いかけていった方向を見て、やれやれといった風に呟いた。

「ああ校長先生!…というか認識ということは…」

にゃももが尋ねると、タイタンはため息をついた。

「だいぶ困った生徒でな…。ただのガキ大将程度ならまだかわいいレベルだけど、それも超えるぐらい乱暴者でな…」

タイタンの表情は、心底うんざりしているようだった。

「今回も同じようなことをまたやっていることを確認したから、アカウント停止処分を検討だな…」

タイタンの言葉に、にゃももはふと疑問が湧いた。

「あのー、ごうとさんって小学生ですか?」

「彼の情報によれば、小学6年生だ。だがうちの場合は金融的な理由から18歳未満は保護者の同意がないと入学はできないように仕組みはしているが…」

タイタンは説明したが、くろとがそれに続いた。

「けど、まだ肝心の仕組みがまだまだガバガバでね…。今のところ、すり抜けて入れてしまうんだ…」

くろとの言葉に、タイタンはがっくりと肩を落とした。

「うう…プログラミングは難しいよん…」

校長であるにも関わらず、どこか情けないタイタンの姿に、にゃももは思わず苦笑した。

「それはそうと、大切な生徒を守ってくれてありがとう!大変だったわね…」

くろとはにゃももの手をそっと握り、労うように言った。その優しさに、にゃももは少しだけ緊張が解けた。

「正直、マジで怖かったです…いくら小学生相手だとしても…」

にゃももの本音に、すいれんが付け加えた。

「まあ、見た目と身長逆転だからなぁー」

「こら!余計なことを言わないの!」

くろとはすいれんを軽く叱ったが、すいれんは悪びれる様子もなくヘラヘラしている。

「それはそうと、改めてお疲れ様、にゃももさん。早速入学1日目から災難でしたわね…」

くろとはにゃももを気遣うように言った。

「学校見学の方はどうでしたか?」

「いやぁー正直、広すぎて、慣れていても迷いそうです」

にゃももは正直な感想を述べた。

「こういうときはワープ機能を使ってみるといいですよ」

くろとの言葉に、にゃももは「ワープ機能?」と首を傾げた。

「この学園はとにかく広い上に、校舎も分断しているため、ワープ機能があるのですよ!なのでその対策として導入しました」

くろとはにこやかに説明する。

「さきほどタブレットをお渡しした際に、マップという機能がありますよね」

にゃももは、言われた通りタブレットの画面を開き、マップアプリを起動させた。

「そのマップという機能で、とりあえず生徒会室を検索して押してみてください!すると『ワープする』というボタンがありますよね!それを押してみてください」

にゃももは言われた通りに操作した。生徒会室を選択し、ワープボタンを押す。すると、一瞬にして視界が歪み、次の瞬間、目の前には見慣れた生徒会室が広がっていた。

「わあああ!?本当にワープした!まるでオープンワールドのゲームのように!」

にゃももは興奮して声を上げた。まさか、本当にワープできるとは。

「一応、ここオープンワールドですけど」

くろとが冷静に突っ込んだ。その言葉に、にゃももは思わず苦笑いした。この学園の常識は、やはり私の知る常識とは全く違う。

「ともあれ、1日目の学習はお疲れ様でした!あとすいれんもツアーお疲れ!」

くろとの言葉に、すいれんは胸を張った。

「すいは任務を果たしました!」

「それはそうと…にゃももさん、本当に申し訳ないです!あとでお返しをいたします」

くろとは、にゃももに深々と頭を下げた。にゃももは何のことか分からず、きょとんとした。

「ええ?何かしたの?」

するとくろとは、すいれんの方をじろりと睨んだ。

「あんたまた、人様のお金で飯を大食いしたでしょうよ!しかもスイーツだし!」

くろとの言葉に、すいれんはギクリとしたように肩を震わせた。

「げげ!なぜバレた!」

「口の周りにチョコが付いているし!しかもお小遣い調査で使っている様子がないからバレバレよ!」

くろとの的確な指摘に、すいれんは観念したようにため息をついた。

「なな!やれやれ、これだから監視社会は嫌なんだ…」

その言葉に、にゃももは再び苦笑いした。この学園のどこまでが自由で、どこからが監視されているのか、全く分からない。

「それはそうと、学生にしては相当な額だったと思いますが」

くろとがにゃももの「お金」について触れた。

「あ、いえそこまでお気になさらずで。それに女子はこの年齢が成長期ですから、たくさん食べるのは当然ちゃ当然ですよね!」

にゃももは、自分の謎のお金のことを隠すように、笑って誤魔化した。

「あれはちょっと…小学生の範囲を超えているので…」

くろとは、呆れたように呟いた。

「だから気にしなくて大丈夫ですよ!バイトとかで稼げばいいんで!」

にゃももは、そう言って笑った。

「若いのにしっかりしているな」

タイタンが感心したように呟くと、すいれんがすかさず突っ込んだ。

「おじさん、おっさんくさいよー!」

「私とそんなに年の差がないですからね…」

くろともまた、タイタンに辛辣な一言を浴びせた。

「おいおい年齢バレしちゃうだろうよ!」

タイタンは慌てて口を閉じた。

「それはそうとお疲れ様!今日はゆっくり休みな!」

タイタンはにゃももに労いの言葉をかけ、続けた。

「そうだ!ワープ機能で補足で自宅にもワープできるから、それ使うと便利だぞ!」

にゃももは目を輝かせた。自宅にワープできる機能は、とても便利だ。

「これを覚えていけば、食パンダッシュは過去のものになるぞー!」

タイタンは、にゃももが今朝校門前で食パンをくわえて走っていたことを、またしてもネタにした。

「今日が味が濃いのに、まだそのネタを引きずるんですか!」

にゃももは呆れつつも、その言葉に少しだけ笑ってしまった。この学園での1日目は、まさに波乱万丈だった。たくさんの驚きと、そして多くの謎。生徒会長任命という重責も課されたが、きっとこの学園での日々は、退屈することはないだろう。

にゃももは、タブレットのワープ機能を使って、自宅へと帰っていった。

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