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【スカイブルーライン編 第1章 第11話】大食いラーメンに挑戦してみた

「腹が減ってお胸がくっつきそ~」

TITAN学園の校舎を歩きながら、すいれんが両手でぺったんこになった胸を押さえて大げさに言った。

「それを言うならおなかと背中でしょう?あれほど食っていたのにもうですか…」

横を歩くくろとが、呆れたようにため息をつく。つい先日、タイタンとスーパーで大量のステーキを買ったばかりだというのに、すいれんの食欲には底がないらしい。

「すいれんはやはり育ち盛りだからなー!こりゃあビックになるぜ!」

タイタンが楽しげに笑い、すいれんの頭をポンと叩く。その言葉に、すいれんは目を輝かせた。

「おう!あれ見て~!」

すいれんが指差す先には、古びたラーメン店の看板が立っていた。そこには「大食いチャレンジ!完食で無料!」と書かれた貼り紙が見える。タイタンは目を細めた。

「しかーし、最近見なくなったなぁ~!こういう大食いチャレンジって。」

「ええ?どうして!?」

すいれんが純粋な疑問をぶつけると、タイタンは腕を組み、少し難しい顔で語った。

「食べ残しとか、あとは原材料に対し対価がないなど、合理的じゃないってことだな。それから、最近の健康志向も大きい。メタバースといえども、現実世界の価値観が少なからず影響するからな。」

「ふむふむ、最近の若者はSNSで見栄を張るために気にしてますな。」

すいれんが腕を組み、まるで老人のように頷く姿に、タイタンは思わずツッコミを入れた。

「お前も10歳だろ!どこのおじさん目線で見ているんだ!」

すいれんは、そんなタイタンのツッコミを軽く受け流し、キョロキョロと周りの店を見回した。

「ねえねぇ、この店にしない?いっぱいありすぎて、すいれんの脳がパンクしちゃうし。」

「それもそうだな…俺もちょうどラーメン食いたいし。」

タイタンもまた、他の店を探すのが億劫になったのか、すぐに大食いチャレンジの看板を掲げるラーメン店に目を向けた。

すいれんが、キラキラした目でタイタンを見上げた。 「どうせなら~高校時代のような生き生きとしたおじさんをこの手でもう一度~」

「おう!俺は後継者ができたけども、まだまだバリバリだし!」

タイタンは、すいれんの言葉に乗せられて、少し調子に乗った表情を見せる。しかし、隣にいたくろとが冷静に忠告した。

「やめといたほうがいいですよ…どう考えても体に悪いですし。」

「まあ冗談だって、それに俺はもう年だし。」

タイタンは、くろとの忠告に少ししゅんとして、冗談めかして言った。

「もう老後ですか…」

すいれんの容赦ない言葉に、タイタンは苦笑いを浮かべた。

「いや、そこまでじゃないけど、10代と20代の壁って結構老化が来るなぁって実感するんだよ。」

「でもここはメタバースなんだから関係なくねー?」

すいれんの純粋な一言に、タイタンはハッと目を見開いた。

「あー、確かに!ブラックホールのように無限に食べられるんだよな、この世界では!よし!すいれん!行ってみるか!今日はラーメンだ!」

タイタンの目が、再び少年のように輝いた。くろとは深いため息をついたが、もう彼を止める術はないと悟ったようだった。


ラーメン店に入店をした。木の温もりを感じる店内には、香ばしい豚骨の匂いが漂っている。

すいれんは、一番乗りで店に入ると、威勢のいい声を出した。 「へいいらっしゃ~い!」

「おいこら!お前が言うセリフじゃないだろ!」

タイタンが慌ててすいれんの頭を叩くが、すいれんはケラケラと笑うばかりだ。

「いい響きだからつい~!」

「誤解を招くからよしてください。」

くろとが冷静に注意を促す。その時、タイタンが突然そわそわし始めた。

「なんかトイレ行きたくなってきたな…この世界でもトイレは短いな…」

「なぜそんなシステムを入れたんですか…私も行きたいかも。」

くろとが呆れたように言うと、タイタンはすいれんに振り返った。

「すいれん!俺らくろととトイレ行くから、注文を決めておくれ!」

「はいはーい!」

すいれんは元気よく返事をした。タイタンとくろとがトイレに消えていくのを見届けたすいれんは、意気揚々と厨房に向かって声を上げた。

「へい!大将!」

奥から出てきた店員は、すいれんの顔を見るなり、驚いた表情を見せた。

「おや!君はTITAN校長の娘さんの!」

「そうでーす!この私すいれんがこの店に降臨でーす!」

すいれんは、胸を張って自己紹介をする。店員は苦笑いを浮かべながら尋ねた。

「今日は一人で来たのか!」

「いえ!今日はおじさんとオニメイドの3人で来たの!」

「タイタン様と付き添いがいるのね!それで何か注文は頼みたい?」

「うーんと…この特別なラーメンを3つ!

すいれんの言葉に、店員と、近くに座っていた他の常連客たちは、一斉に驚いた表情で固まった。特別なラーメンは、この店の名物であり、その量からして一人で完食できる者はまずいないとされている。

店員は、まだ幼いすいれんの言葉を冗談だと思ったのだろう。 「ははは…面白い冗談を言うよね!すいれんちゃん、この特別なラーメンは普通のラーメンの10倍ぐらいの量があるんだぜ!いくらなんでも…」

「いえ!大丈夫です!おじさんはなにせ昔からグラボのように大食いですから、女の子の分まできちんと食ってくれますよ!」

すいれんの真剣な眼差しと、タイタンへの絶大な信頼の言葉に、店員は戸惑った。校長がかつて「大食い」で有名だったことは知っていたが、まさかここまでとは。

「そうかそうか!よし!じゃあこれでOKだな!」

店員は、半信半疑ながらも注文を受けた。しかし、彼は厨房に戻りながら、隣の店長に耳打ちする。 「しかしな、タイタン様はかなり食べるというのは聞いたことけど、実際に目の当たりにするとヤバいぜ…」


しばらくして、タイタンとくろとがトイレから戻ってきた。タイタンは、スッキリとした顔で満足げに言う。

「ふぅー…トイレ長かったぜ…」

「メタバースでもトイレ待たされるとなんのためのメタバースなんですか、になりますよ…」

くろとの冷静なツッコミに、タイタンは苦笑いを浮かべた。彼はすいれんに目を向けた。

「おう!すいれん!注文決まったか!」

「うん!自信満々なものを頼んだよ!」

すいれんの自信満々な笑顔に、タイタンは「そうかそうか!」と無邪気に頷いた。その瞬間だった。

「へいお待ち!特別なラーメン3つ!

威勢のいい声とともに、目の前に運ばれてきたのは、まるで洗面器のような巨大な器に山盛りにされたラーメンだった。通常のラーメンの10倍という言葉は伊達ではない。巨大なチャーシューが何枚も乗せられ、麺が器から溢れんばかりに盛り付けられている。

タイタンとくろとは、その光景にがくりと肩を落とした。

「すいれんーーーーー!!!」

タイタンの叫び声が店内に響き渡る。

「お前なんというものを注文しているんだよ!」

「え?特別ラーメンがほしいんじゃ?」

すいれんは、純粋な瞳でタイタンを見上げた。その瞳には、悪意など微塵も感じられない。

「そんなもん俺頼んでないぞ!」

タイタンは頭を抱える。しかし、店員はにこやかに口を挟んだ。

「いやー、まさかTITAN様、見事学生時代の復活を見せてくれますか!」

店員の言葉に、タイタンは慌てて手を振る。 「いや…それは…」

「というわけで、60分以内にこの特別なラーメンを食べきれるか…!」

店員は、タイマーをチラリと見せながら続ける。 「もし食べきれない場合でも、いくらTITAN様でも10倍の倍額を請求いたします!」

「げげ…!マジかよ!」

タイタンの顔が青ざめる。大食いチャレンジに失敗すると、通常の10倍、つまり100倍の値段を支払うことになるのだ。

くろともまた、目の前のラーメンを見て顔を引き攣らせた。 「どうしますか…!私は1人前でもきついのに…」

タイタンは、意を決したように箸を手に取った。 「仕方ない!できる限り限界を突破してみるわ!」

彼は大きく息を吸い込み、目の前の巨大なラーメンに向き合った。

「いただきます!」

タイタンとくろと、そしてすいれんも一緒に、ラーメンを食べ始めた。しかし、開始からわずか5分後。

くろとが箸を置き、小さく頭を下げた。 「…さすがに降参です。」

「おいおい5分も経ってないぞ…」

タイタンは、まだ半分も減っていないくろとのラーメンを見て、呆れたような声を出す。

「私は普段から脂っこいものはあまり食べないので…これ以上はきついです。」

くろとの顔は、すでに青白い。無理をさせても意味がないと悟ったタイタンは、大きくため息をついた。

「マジかよ…!仕方ない!すいれん、俺ら2人で食切るぞ!」

タイタンは、すいれんの顔を見上げた。すいれんは、目をキラキラと輝かせ、力強く頷いた。

「もちろーん!」

それから20分後。

タイタンは、すでに息も絶え絶えだった。彼の目の前の器は、ようやく半分ほど減ったところだ。 「くそ~さすがに俺もここできついな…。」

タイタンは、額に汗を浮かべながら、隣のすいれんを見た。しかし、すいれんの器は、もうほとんど空っぽだった。彼女は、まだ余裕綽々の顔で、タイタンを不思議そうに見つめている。

「あら~やだ~もうお腹いっぱいなの?いろんなとこ大きいのに。」

「胃袋自体は昔に比べてそこまで大きくないんだよ…って、お前!ラーメンはどうしたんだ!?」

タイタンが驚いて尋ねると、すいれんは首を傾げた。

「え?いただいたけど~。にしても、おやつの量だよあれ?」

すいれんの言葉を聞いた他の常連客たちは、一斉に驚きの表情で固まった。中には、椅子からずり落ちそうになっている者までいる。

タイタンは、すいれんの桁外れの食欲を目の当たりにし、最後の希望を託すことにした。

「なら…お前食ってもらっていいか…!?なあ店員さん、他の人が食っていればいいよな?」

タイタンが店員に助けを求めると、店員は呆然としながらも頷いた。 「もちろん!特別なラーメンは複数人を想定したものですから!」

「やった~!お代わりだ~!」

すいれんは、残りのラーメンをまるでデザートのように、どんどんと食べ始めた。その姿は、まるでブラックホールのように、いくらでも吸い込んでいくかのようだった。店員も常連客も、ただただその光景を呆然と見つめるしかなかった。

数分後、すいれんは満足げに息を吐き出した。

「ふぅ~いい量だったよ~。」

その言葉に、店員は目を疑うように、空になった器を何度も確認した。 「ええ…嘘だろ…あの特別なラーメン3つをまさか完食だと…」

すいれんは、キョトンとした顔で店員を見上げた。 「なんだ~大食いチャレンジという割に、全然大したことなかったな~。」

店員は、すいれんの無邪気な笑顔の裏に潜む、底知れぬ胃袋の存在に恐怖すら感じた。 (なんだこの子!25人分を食ったのに…この余裕そうな天使のほほえみは!)

すいれんは、さらに恐ろしい一言を放った。 「ねぇ!お兄さん!この特別なラーメンって、完食すればいくらでも無料だよね?」

店員は、冷や汗をかきながら、かろうじて頷いた。 「まあルール上はそうですけど…」

「じゃあ!5個頼むわ!

店員は、その言葉に絶望した。 (うわ~!この子、いろんな意味で規格外すぎるわ…もしや将来有望だったりして!)

すいれんは、満腹感に浸りながら、至福の表情で言った。 「ふぅ~いい味だったぁ~こんなに勢いのある食事は初めてかも…」

店員は、もはや言葉も出ない。 「は、はい…そうですか…」

タイタンも、すいれんの食欲にはお手上げだった。 「もう十分だろ…さすがに食いすぎじゃね?」

すいれんは、少し残念そうにしながらも、頷いた。 「うーん、まだいけるけどなんか同じもの食って飽きそうだし、今日はこの辺でお暇するわ~。」

店員は、店長に駆け寄った。 「店長…」

店長は、遠い目をして天井を見上げた。 「今月は大赤字確定だな…。」

店員は、青ざめた。 「そんな~せっかく黒字なのに~。」

TITAN園のラーメン店は、すいれんの出現により、今月の大打撃を覚悟するのだった。

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