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【スカイブルーライン編第1章第2話】学園は自由登校

「スイレン様、また学校ジャージですか」

くろとの声が、私の耳に心地よく響く。朝食を終え、これから学校へ向かう準備をしていた私は、いつものお気に入りのジャージに身を包んでいた。

鮮やかな水色を基調に、胸元から裾にかけて白いラインが走る、動きやすくて気持ちいいジャージ。これこそが、私の戦闘服なのだ。

「だってこの格好動きやすくて気持ちいいもん」

私はくるりと回って、ジャージの快適さをアピールした。

この「Titan園」もとい私が通う「TITAN学園」の中では、アバターの姿は自由に設定できる。

だから、制服だって、私服だって、何だって着られる。

でも、私はこの水色と白のジャージが一番のお気に入りなのだ。

「わからなくはないけど、たまには私服とか」

くろとは、少し困ったように眉を下げた。彼女はいつも、私に色々な服を着せようとする。可愛いフリル付きのワンピースとか、ひらひらしたスカートとか。

でも、動きにくいのは嫌なんだ。

特に今日の、だるまさんが転んだサバイバルような場面とかでは、一瞬の動きが勝敗を分ける。

だから、どんな時でも最高のパフォーマンスが出せるこのジャージが、私にとっては最高なのだ。

「すいれんは俺が設計した学園指定ジャージが気に入ったんだな」

リビングのソファでコーヒーを飲んでいたタイタンおじさんが、にやりと笑った。

このジャージは、タイタンおじさんが作った学園の指定ジャージなのだ。

そのデザインも、機能性も、全てタイタンおじさんのこだわりが詰まっているらしい。

特に、ジャージの素材は、アバターの動きを邪魔しないように、とことん軽量化されているのだとか。

「タイタン様もなんか言ってくださいよ!この子ジャージ着てばかりですよ!飽きないんですか?」

くろとは、タイタンおじさんに詰め寄った。

まるで、私が変な服を着ているとでも言いたげな口ぶりだ。

くろとから見れば、毎日同じ格好をしているのは、少し寂しいのかもしれない。でも、私にとっては、このジャージが一番落ち着くのだ。

「別にいいんじゃないの?俺も別に動きやすいほうが好きだしよー!」

タイタンおじさんは、くろとの言葉を一蹴した。

そうそう、タイタンおじさんも、いつもラフな格好をしているもんね。

それに、私もタイタンおじさんも、快適さを重視するタイプなのだ。

「すいれんは一応聞くけど俺の学園は私服でも登校OKだぞ!制服もあるし!」

タイタンおじさんは、私に向き直って言った。う

ん、それは知ってる。この学園は、タイタンおじさんが「自由に学んでほしい」って言って作った学園だから、服装だって自由なのだ。

入学する時に、色々な種類の制服のカタログを見せてもらったけど、どれもこれもフリルやリボンがいっぱいで、動きづらくて硬直化しそうな感じだった。

「スカートはふとももの動きが制約がつくからいやだ」

私は、むーっと頬を膨らませて、嫌そうな顔をした。

スカートなんて、走ったり跳ねたりするのに邪魔になるだけだ。

スカートじゃ本気を出せないもん。

それに、膝を曲げたり、大きく足を開いたりする動作が、どうしても制限されてしまう。そんなの、遊びの邪魔にしかならない。

タイタン・くろと「根っから嫌そう・・・」

二人の声がハモった。本当に、私の気持ちを分かってくれないんだから。私がどれだけ、このジャージを愛しているか。どれだけ、動きやすさを重視しているか。

「それじゃあ俺とスイレンは学園へ行ってくるぜ、くろとは今日は学園へ行けそうかな?」

タイタンおじさんが、立ち上がってくろとに尋ねた。くろとは、私たちの学校の先生でもあるのだ。普段は家事代行AIとして、私たちの生活を支えてくれているけど、学園では「マナーと教養」という授業を担当している。生徒たちからは、いつも厳しくて優しい先生として慕われているらしい。

「今日は家事で忙しいから難しいですね」

くろとは、少し残念そうに首を振った。その顔には、本当は学園に行きたい、という気持ちがにじみ出ているように見えた。

「あーそうか…家事代行は忙しいんだな」

タイタンおじさんは納得したように頷いた。くろとは、私たちのメイドさんであり、そして「Titan園」の家事代行AIでもあるのだ。

だから、いつも忙しそうにしている。朝食の準備から、洗濯、掃除、そしてアバターたちの健康管理まで、本当にたくさんのことをこなしているのだ。

「あーそういえば、ジュリアのやつは今日も東京に行ったのかな?」

タイタンおじさんが、ふと何かを思い出したように呟いた。ジュリアは、私の姉。タイタンおじさんの後継者(娘?なのかな?)でもある。

ジュリアお姉ちゃんは私より3年年上であるが、大人びた雰囲気で、いつも冷静沈着。私とは正反対の性格だ。

でも、いつも私のことを気にかけてくれる、優しいお姉ちゃんなのだ。

最近、バーチャル渋谷へよく遊びに行っているらしい。

「そうみたいですね、なんか最近バーチャル渋谷へいくとか」

くろとは、少し心配そうな顔をした。バーチャル渋谷は、「Titan園」とは別のメタバース空間で俺は用意してないまったく別のメタバースを提供している空間だ。

様々な企業やクリエイターが参加していて、リアルな渋谷を再現している場所だ。ライブイベントが開催されたり、ファッションショーが行われたり、色々な新しい体験ができるらしい。ジュリアは、そういう新しいものに興味があるのだ。

「リアルな出来事じゃなければ良いんだけど・・・」

タイタンおじさんは、何やら難しい顔をしている。

リアルな出来事って、どういうことだろう?ジュリアがバーチャル渋谷に行くことは、私にとってはただの遊びにしか見えないけど、タイタンおじさんは何か違うことを考えているようだ。

「最近夜遅いし、学校も自由登校とはいえここ数日いかないとなると」

くろとが、さらに心配そうな声を出した。ジュリアは、この「Titan園」の学園に通っているはずなのに、最近あまり来ていないらしい。

確かに、夜遅くまでバーチャル渋谷にいると、朝は起きるのが大変だろう。自由登校とはいえ、さすがに数日も連続で休むのは、心配になる気持ちも分かる。

「まあ俺があいつの情報を見れるからどういうことをしているか調べてみても良いかもな」

タイタンおじさんは、腕を組みながら言った。タイタンおじさんは、この「Titan園」の管理者だから、みんなのアバターの行動ログや、アクセスしているワールドの情報など、様々な情報を見ることができるのだ。

ジュリアが何をしているのか、少しだけ気になっているのだろう。私も、姉が何をそんなに楽しんでいるのか、ちょっとだけ気になる。でも、直接聞くのはなんだか照れくさいのだ。

「気を付けていってらっしゃいませ」

くろとが、私たちを見送ってくれた。その表情には、私たちの安全を願う気持ちが込められている。

「じゃあすいれっm、これから学園まで…」

タイタンおじさんが私に声をかけようとした、その時だった。

あれ?すいれんがいない!

タイタンおじさんの視線の先には、もう私の姿はなかった。私は、すでに玄関を飛び出し、外に止まっているタクシーに駆け寄っていた。

この「Titan園」の敷地内には、ワープする機能があるが、けど雰囲気を残したいこともあり乗り物もある。

その一つが、この自動運転のタクシーだ。

「へい!タクシー!あたいを学園まで連れていってくれない」

タクシーAI「目的地はどこでしょうか?」

バスのAIが、機械音声で尋ねてきた。その声は、どこか無機質だけど、優しい響きを持っている。

「TITAN学園の生徒会までひとっとび~!」

私は元気よく答えた。早く学園に行って、だるまさんが転んだサバイバルの研究をしないと!特に、鬼の動きを予測する練習は、動画でしかできないから、時間が惜しいのだ。

その時、後ろから猛烈な勢いで、くろととタイタンおじさんが駆け寄ってきた。二人は、慌てた表情でバスのドアを開け、私を引っ張り出した。くろとの顔は、いつになく真剣だ。タイタンおじさんも、少しばかり焦っているように見える。

タクシーから強制連行され、私はくろとに頭をがつんとげんこつを喰らった。別に痛くはないけど、ちょっとだけ不満だ。くろとのげんこつは、いつも愛情がこもっているから、不思議と痛みを感じないのだ。

けどくろとはこのげんこつをしたが手をいたそうにしていた。

「すまん!悪いけどキャンセルで」

タイタンおじさんが、バスのAIに頭を下げた。AIは、何も言わずにドアを閉め、ゆっくりと走り去っていった。

「たくお前はすきがないうちに勝手にとめよって、てかどうやって止めたんだ…」

タイタンおじさんが、私をジロリと睨んだ。私がどうやってタクシーを止めたのか、不思議に思っているようだ。私がアバターの特別な能力を使ったとでも思っているのだろうか。

「えーいつものワープだけじゃあ飽きちゃったもん!」

私は、ぶーぶーと不満を言った。いつもは、タイタンおじさんがワープ機能を使って、一瞬で学園まで連れて行ってくれるのだ。

でも、それじゃあ面白くないもん。たまには、違う方法で移動したいんだ。タクシーとかに乗って、景色を眺めるのも楽しいし、他のアバターとすれ違うのも面白いのだ。

「遠いから仕方ないだろ…オープンワールドなんだし」

タイタンおじさんは、呆れたようにため息をついた。

そう、ここはオープンワールド。どこまでも広がる自由な世界なのだ。だから、ワープを使わないと、学園まで行くのに時間がかかっちゃうのだ。

TITAN学園は、このWorldの中心地にあるから、私たちが住んでいる場所からは結構距離があるのだ。

というわけで、改めてすいれんとタイタンは、このWorldの中心地TITAN学園へワープして向かっていた。

一瞬にして景色が変わり、目の前には、巨大な学園の門がそびえ立っていた。ワープの時の独特な浮遊感は、いつになっても慣れないけれど、あっという間に目的地に着くのは、やっぱり便利だ。

TITAN学園は、タイタンおじさんが理想とする教育を実現するために作られた学園だ。

建物はまるで未来都市のようで、ガラス張りの壁が太陽の光を反射してキラキラ輝いている。

校庭は広大で、奥にはドーム型の体育館や、見たこともないような実験施設が並んでいる。学園の敷地内には、様々な植物が植えられていて、季節ごとに違う花が咲き乱れる。まるで、巨大な公園の中に学校があるみたいだ。

門をくぐると、色とりどりのアバターが思い思いの服装で歩いているのが見えた。

制服を着ている生徒もいれば、私服の生徒、中にはファンタジーに出てくるような鎧を着ている生徒もいる。

本当に自由な学園なのだ。みんな、それぞれ好きな格好で、好きな場所で、好きなように学んでいる。

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