TITAN学園の校舎の一室。今日はすいれんがお金についての授業を受ける日だ。本来なら、この授業はすいれんの兄であるゴールドコインが担当するはずだった。しかし、教室の扉が開き、そこに現れたのは、彼の代わりに立つ、予想だにしない人物だった。
金髪を揺らし、蛍光色の黄色いジャージに身を包んだ小柄な女の子が、にこやかに教室に入ってきた。見たところ、すいれんとそう変わらないくらいの年齢に見える。
「はーい!すいれんちゃん!先生だよー!よろしくね!」
その満面の笑みに、すいれんは思わず心の声が漏れそうになった。 (うわ!これはクセの強い確定じゃん!)
しかし、そこはTITAN学園の生徒。気を取り直して、すいれんは小さく頭を下げた。 「よろしく…!」
女の子は楽しそうに、自分のジャージの袖を引っ張ってみせた。 「ああ!この格好!先生らしくないよねー!うちもすいれんちゃんと同じ生徒なのー!」
すいれんが目を丸くするのも構わず、彼女は胸を張って宣言した。 「今日は仮想通貨マニアのこの私、しばぬんが仮想通貨について教えちゃうよー!」
その時、教室の入り口から、にこやかなゴールドコインの声が響いた。 「やあ、わが妹よ!お前さんがこの前、リアルのお金とバーチャルのお金について気になっていたようだから、今日は俺よりも詳しい人を代行してもらうことにしたんだ。」
すいれんは驚きを隠せない。 (お金オタクのお兄ちゃんよりも上には上がいるとは…)
しばぬんはゴールドコインの方に向き直り、恐縮したように手を振った。 「いやいや、ゴールド先生には構いませんよー!わたし、仮想通貨マニアであって、現実世界のお金のこと全然無知なんですよー!」
すいれんは思わずツッコミを入れる。 (それで先生はつとまるのー!)
ゴールドコインは、そんなすいれんの心の声が聞こえているかのように、釘を刺した。 「というわけだ、妹よ、しばぬんにくれぐれも迷惑をかけないようにきっちり勉強をしてよな。」
兄の言葉に、すいれんは肩をすくめた。 (本当にこの学園は何でもありだな…)
こうして、型破りな授業が幕を開けた。
「まずはお互いにはじめましてですよね!じゃあさっきも名前で言ったけど私から!」
しばぬんは、教壇に立つと、まるでコンサート会場のステージにでもいるかのように、身振り手振りを交えながら語り始めた。
「私はしばぬん!さっきも先生がちらっと説明したけど、私はだいの仮想通貨マニア!好きな仮想通貨はもーちろん!ビットコインよ!やはりあの金色がピカピカでたまらないよねー!2100万枚しかないから1BTCあたりのお金がとてつもなく高く、とてもだけどお金持ちしか買えないんよねー!
仮想通貨10年の歴史を持つ私でも色んな種類は出てくると思うけどそうそうにあの価格は凄まじい歴史は…」
しばぬんの自己紹介は、まるで止まらないおしゃべりの泉のようだった。
ビットコインへの愛と、その知識がとめどなく溢れ出す。すいれんは、彼女の熱弁をぼんやりと聞きながら、心の中でつぶやいた。
(いや…いつまでこの自己紹介続くの…)
ようやく一息ついたしばぬんは、満足げな表情で尋ねた。 「ということで私が仮想通貨マニアということは証明できたかな!?」
すいれんは呆れ顔で即答した。 「いやいや自己紹介という枠を超えているわ!最初の1分でもう理解したし!」
しばぬんは、ポンと手を叩き、まるで何かを思い出したかのように言った。 「おっと!仮想通貨のことですっかり忘れていた!私、生徒会の一員なの!仮想世界の担当者としてね!!」
すいれんは、またもや心の声を発した。
(こんな自己紹介長い人が生徒会を務めるとは…)
「じゃあ改めてすいれんちゃん、自己紹介を頼むよー!」
しばぬんの声に促され、すいれんは立ち上がった。 「私はすいれん、おじさんの娘で小学5年生の10才児!体を動かすのが大好きです!よろしくね!」
すいれんの自己紹介に、しばぬんは目を丸くした。 「校長のことをおじさんってw!すいれんちゃん、彼はまだまだ若いよー!」
「えー?私から見たらもう随分とおじさんはおじさんだよー!おまけに足臭いし!」
すいれんの容赦ない言葉に、しばぬんは苦笑いを浮かべた。 「最後は否定できないかも…」
「まあこれは年齢的な視点のせいかもしれないな…うちこう見えて高校生だしな!」
しばぬんの言葉に、すいれんは思わず彼女の全身をじっくりと観察した。
そして、その視線を感じ取ったかのように、しばぬんがすいれんの心を言い当てた。
「あー!すいれんちゃん、わたしのこと『こう見えても中学生だろ!』と思った目したよね?」
すいれんはギクリとした。 (なんだこのウザい子…すいより強力なインパクトを持つ相手初めてかも…)
しばぬんは、わざとらしくため息をついた。 「あーあ、私は身長150cmしかないからそう思われるんだ…」
(いやいや身長だけじゃないと思うよ…)
すいれんが心の中でツッコミを入れたその時、しばぬんは、突拍子もないことを口にした。 「もっと!もっと!くろとみたいにおっぱいでかく」
ゴンッ!
突如、音もなく現れたくろとのゲンコツが、しばぬんの頭に炸裂した。
「うるさいわね!いいからさっさと授業に取り組みなさい!」
くろとの有無を言わせぬ迫力に、しばぬんは頭を抱え、小さくなった。 「は…い!」
すいれんは、この時ばかりはくろとに賛同した。 (さすがにこれはくろとの意見には賛成するわ)
こうして、ようやく授業が始まった。
「さーて、あらためて仮想通貨の授業を始めーます!」
しばぬんは、気を取り直したように教壇に立った。すいれんは、まだゲンコツの衝撃が残っているかのようなしばぬんの様子に、思わず「お、おう…」と相槌を打った。
「いやぁー!まさか生徒同士の授業ってなんだか新鮮だよね~!リアルの学校だと絶対に真似できないらしい。」
しばぬんの言葉に、すいれんはタイタンの言葉を思い出した。
「たしかおじさんによれば、リアルの学校は先生が一方的に話して、生徒は聞いて、それをノートに移すだけのような…」
「まああれだと覚えられないからなー!特に仮想通貨なんて体験してなんぼなんだから。」
しばぬんの言葉に、すいれんは素朴な疑問を投げかけた。 「普通のお金とはなにか違うの?」
「あーらやだー!すいれんちゃん!お金を使っていて気づかない?普段あたしらが使っているの**『仮想通貨』**よ!」
その言葉に、すいれんは全身に衝撃が走った。 「え・・・あれって仮想通貨なの?」
「え!?えええええええええええええええ!?」
すいれんの叫び声が教室に響き渡る。
しばぬんは、そんなすいれんの反応を面白そうに見て言った。
「まあこの世界の住人だと、みんな違和感を感じるだろうね…!だって『仮想通貨』という名前を名付けたのは向こうの世界の人が勝手に名付けたわけだし。」
このTITAN園の世界では、仮想通貨が当たり前の通貨として流通している。読者が現実世界で日常的に使っている法定通貨(日本円や米ドルなど)は、この世界の人々からすれば「異世界の通貨」とみなされているのだ。
「私たちからすれば、日本円とか米ドルなどのお金なんて、『お金って形があるの?』という違和感ありまくりだし。」
しばぬんの言葉に、すいれんの目が点になった。 「お金って形があるんだ…」
すいれんは、お金に「形」があることを、この時初めて知ったのだった。
「うーん、本来なら仮想通貨についても教えたいところだけど、なんだか法定通貨の反応が面白そうだし!今日の授業は法定通貨と国の関係性とはなにかについて勉強していくよ!」
しばぬんの突然の方向転換に、すいれんは心の中でツッコミを入れた。 (それは先生としてはどうなのか!…いや生徒か…それは仕方ないことだ)
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